5 電離平衡・中和(4):体のpHを守るために
pHを守る重要性が分かってもらえたところで、
透析についておはなししましょう。
化学の世界の一般的な「透析」は、
粒の大きさと浸透圧(ぎゅうぎゅうすかすか)を利用して
溶質分子(溶けているものの粒)を移動させること。
でも、ここでおはなしする「透析」は、
ヒトの腎臓がおかしくなったときにその代わりをする「人工透析」です。
ヒト体内のpH調節を肺と赤血球がしてくれるおはなしをしました。
肺以外の原因でpHが傾くときには「代謝性」の文字が付くことも、
その代表例もおはなし済みです。
この「代謝性」に大きくかかわってくるのが、腎臓です。
腎臓の働きは血液中の老廃物(ゴミ・いらなくなったもの)をこしとって
尿として体の外に出せる形にすること。
それに加えてカリウムイオン(K⁺)と水素イオン(H⁺)を
適度に交換して血液pHも調節しています。
必要に応じて
炭酸からできた重炭酸イオン(HCO₃⁻)を体の外に出す量も調節できるので、
融通が利く、結構便利なところです。
ただし、一度おかしくなると取り返しがつきません。
腎臓がおかしくなってしまったら、
老廃物(ゴミ)を尿として体の外に捨てられなくなります。
そのままではヒトは死んでしまうので…人工透析の出番です。
人工透析はヒトの血液中に流れている老廃物(ゴミ)を、
粒の大きさと浸透圧を利用して、
体の外に取り出すための装置です。
血液を体外の機械へ運ぶ管に通し、
ちょうどいい浸透圧の透析液と、
ちょうどいい穴の開いている半透膜(水や穴より小さい粒だけを通す膜)を準備。
ぎゅうぎゅうすかすかの力で、
水の中に溶けている老廃物だけを透析液に移動させていきます。
腎臓には大動脈から太い直行便の血管(腎動脈)が出ていますので、
たくさんの血液を一気に流すことができました。
でも、人工透析は腕の血管から機械に血液を通すしかありません。
だから1回の透析に数時間かかります。
その間、機械のそばにずっ~といなければいけません。
しかも、週に3~4回が普通です。
さらに、これだけでは「血液のpH調節」ができていませんね。
老廃物の移動に加えて、
血液を体に戻すときにpHを調節し、
半透膜を抜けてしまった水分を適度に体に戻し…
はい、すっごく大変です。
とどめに、ここではおはなしできませんが。
腎臓は赤血球やビタミンにとって大事な働きもしています。
生化学はじめ他の科目で「腎臓」の文字が出てきたら
「あっ!
pH調節して、ごみ捨てして、それからそれから…」と心して読んでください。
それくらい、
ヒトの体は絶妙なバランスを取りながら生きているのですよ。