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1 ケース1:え?輸血した?(1)

法律医療のおはなし、はじめますね。

今回は医療倫理でもよくお題に出される事件です。

まずは、どんなことがあったのか紹介しましょう。

 

(事件紹介ここから)

Aはエホバの証人の信者で、

宗教上の信念から「いかなる場合でも輸血を受けることは拒否する」という

強い意思を持っていました。

Aは、ある日かかりつけの病院で

「肝臓の血管に腫瘍が見つかりました。

輸血をせずに手術をすることは、うちでは無理です」と言われました。

そこで、Aは自分で輸血をせずに手術ができる病院を探すことにしました。

宗教信者間で噂の「輸血しないで手術ができる!」というB医師を知ったAは、

B医師の勤めるC病院に入院することにしました。

 

AはC病院の医師に、

「自分は輸血を受けることはできないが、腫瘍を手術してほしい」と伝えました。

C病院の治療スタンスは

『できる限り患者の希望を尊重するが、

輸血以外の救命手段がないときには、

患者・家族の諾否にかかわらず輸血をする』というものでした。

しかし、C病院の医師らはそのスタンスをAに伝えませんでした。

 

Aの手術中、腫瘍はうまくとることができたが、出血量が2リットルを超えました。

輸血をしなければAを救うことができない可能性が高いと考えられたため、

Aには輸血が行われました。

(事件紹介ここまで)

 

とても有名な事件です。

「エホバの証人事件」という、

医療関係者がよく知っていると思われる事件の1つですね。

 

法律の世界で問題になる事件は「刑事」「民事」「行政」に分けられます。

「行政」は国や市町村等が相手になってくるので、

直接関係してくる人はそこまで多くないはず。

「刑事」とは、おもに身体を拘束されるおはなし。

イメージとしては刑務所に入ることです。

「民事」とは、おもにお金を払うおはなし。

イメージとしては「賠償金払って!」です。

 

この事件は、刑事と民事どちらが問題になったでしょう?

 

この事件は民事。

「賠償金払って!」の問題になりました。

しかも、この事件では相手が医師(と病院)でしたが、

本当は医療従事者の多くに起こってもおかしくないおはなしなのです。

賠償保険に入っていなかったら、いきなり懐に大ダメージです。

頑張って働いて手に入れたお金が、無くなってしまったら困ってしまいます。

だから、ちゃんと考える必要があるのです。

 

いきなり結論。

このC病院とC病院のお医者さんは、Aに賠償責任を負いました。

裁判所に「Aにお金を払いなさい!」と言われちゃったんです。

どうしてこんなことになったのか。

次回から、少しずつ説明していきますよ。