1 ケース1:え?輸血した?(4)
それでは紹介事例の答え合わせです。
最初に確認。
医療行為に魔法がかかるためには…。
自由な「こころ」と「からだ」で、
傷つけられてもいいのか判断するための情報を十分に与えられたうえで、
それでも「傷つけてもいいよ」と明らかに…でしたね。
細かい情報は省いてしまいましたが、
入院時と手術前のサインはもらっているはずです。
それでもC病院と医師たちが「アウト!」になった理由。
そう、情報不足です。
「できる限り患者の希望を尊重するが、
輸血以外の救命手段がないときには、患者・家族の諾否にかかわらず輸血する」
このC病院のスタンスを伝えていませんでしたね。
そこを、裁判所はアウトの理由にしました。
キーワードの「大事なもの」。
Aにとっては信仰であり、天国に行くことでした。
C病院の手術時のスタンスの情報を、手術前にAが知っていたら、
おそらく手術のサインをしなかったでしょう。
明らかにAの判断を左右する情報です。
そうであれば、そのサインには魔法がかかっていません。
医療行為は、アウトのままなのです。
その人にとって何が大事かは、本人以外には分かりません。
だから提供できる情報があるなら、全部提供すればいいのです。
そうすれば患者さん自身が、自分が大事なものの基準に従って判断してくれます。
あなたにとっては些細なことでも、
その人にとっては命を懸けるに値することかもしれません。
「あなたが大事にしていることは何ですか?」
キーワードの意味、分かりましたね。
ちなみに、法律の親玉、憲法ではこのキーワードを「自己決定権」と呼びます。
「インフォームド・コンセント(説明と同意)」のことですね。
ヘルシンキ宣言では「医師」に限定していますが、
法律の世界のアウト・セーフを考えるときには医師に限定されませんよ。
一見、何も問題なさそうだったのに裁判所が「アウト!」といった理由は、
情報不足のせいで、Aのサインに魔法がかかっていなかったからでした。
では、あなたはセーフでしょうか?
してはいけないことは、
「今、何も問題ないから、セーフなんだろう」と思考停止してしまうことです。
おそらく、この事件のような説明不足が原因になることでしょう。
説明不足の原因としては…。
①「忙しいから、説明する時間が惜しかった」
②「細かい説明をする習慣がなかった」
③「C病院の治療スタンスを伝えたら、
Aが別病院を探して手遅れになってしまうかもしれない…
医療従事者としてそれは見逃すことができなかった」
…などが考えられますね。
でも、これらは説明しなかったことを正当化する根拠にはなりません。
次回は「では、どうすればいいのか」について考えてみましょう。