3 ケース3:深夜の悲劇(1)
法律の世界からの「アウト!」を言われないためのおはなし、3ケース目です。
今回のような事件は、数~十数年に1回起こります。
そのたびに問題になっては…風化していきがちです。
「明日は我が身!」の真剣さで考えてくださいね。
(事件紹介ここから)
病院に勤める助産師Aは、産科・小児科の新生児室を担当していました。
ある夜、Aの夜勤中に突如火の手が上がりました。
Aはとっさに新生児3人を抱えて避難しましたが、
火の回りが早く、再び院内に戻ることはできませんでした。
結果、取り残された新生児3人は帰らぬ人となりました。
この火災は、
あまりの寒さにボイラー送風パイプが凍ってしまったのだろうと考えたボイラーマンBが、
トーチランプの炎をパイプに当て、そこから燃え移ったことが原因でした。
Bはその火をすぐに消火できたはずでしたが、
動揺し、自分のミスがばれることを恐れてそのまま逃げだしてしまっていました。
この病院にはスプリンクラーなどの法律で決められた消火設備がなく、
非常口も開放されていませんでした。
そのため非常口までたどり着いても逃げられずに他界した入院患者もいました。
経営者かつ病院長のCは、
消火設備の不備を知っていましたが、これを改善しようとしていませんでした。
(事件紹介ここまで)
…実にいたましい事件ですね。
これもケース2に続き、刑務所行きの「刑事アウト!」のおはなしです。
さっそく、結論から行きましょう。
Aはセーフです。
BとCはアウトです。
結論自体は、とても納得のいくものですね。
一応、前回確認したアウトの要件に当てはめていきましょう。
アウトの要件は…
「何かやばそうだと気が付かなくちゃいけなくて、
そのやばい状態にならないように何とかしなくちゃいけなくて、
それなのにやばい状態を生じさせてしまったら、アウト」でしたね。
Aについてみていきましょう。
まず、やばそうだと気付いたか。
ここでの「やばそう」の中身は、新生児や患者さんが死んでしまうかも!です。
深夜の火災、入院患者がいっぱいいる、
その一方で避難させることのできる医療職の人数は少ない…。
はい、文句なしに「やばそう」です。
次に「やばい状態にならないように何とかしなくちゃいけなかった」か。
ここを考えるときには
『やばい状態にならないように何ができたか』を考える必要があります。
何もできなかったのなら、
「何とかしなきゃ」の話は出てきませんからね。
Aは頑張りました。
やばそうだと気付いたからこそ、新生児3人を抱えて避難したのです。
新生児とはいえ、1人約3㎏。
軽く見積もっても約10㎏です。
Aは頑張りましたが、全員をやばい状態から逃れさせることはできませんでした。
…このときのAを非難する気にはなれませんよね。
その人を非難できない以上、裁判所はAをアウトにしません。
「Aはやばい状態にならないよう、それ以上どうすることもできなかった」
これが裁判所の判断です。
だから、Aはセーフになりました。
…正確に言えば、Aは刑事事件について裁判所の判断を受けたわけではありません。
裁判所に判断を依頼する検察官が、「Aの判断をしてくれ」と起訴しませんでした。
でも、法律の世界から「アウト!」といわれなかったという点では、
結果として同じことですよ。
次回は、BとCについてさらりと確認しましょう。