4 固体と液体・溶解(4):浸透圧とぎゅうぎゅうすかすか液体版
「溶ける(溶解)」の応用のおはなしに入ります。
いきなりですが、ここでクイズ。
水の中に「油にしか溶けないもの」を溶かすにはどうしたらいいでしょう?
ヒントは…
「溶ける」ということは、「なじみを良くして手をつなぐ」こと。
そして「他のものを加えてもいいですよ」という条件も加えましょう。
…頭の中だけで考えようとすると大変です。
「マヨネーズを分離せずに作るにはどうしましょうか?」
という問題に変えて考えてみましょう。
マヨネーズに最低限必要な材料は、卵・塩コショウ・油・酢です。
水好き組の酢と、水嫌い組の油がいますね。
どうやら、卵をうまく使うところにポイントがありそうです。
まず卵黄だけをボウルに入れ、ほぐしながら酢と塩コショウを入れます。
そしてよく混ぜながら、少しずつ油を加えていきましょう。
うまくいくと、白くもったりと不透明なマヨネーズの完成です。
水好きと水嫌いがうまく手をつなげているのはなぜか。
マヨネーズの中を分子レベルでよく見ると…小さなボールが見えてきます。
このボールは中央部に油の粒があり、
それを取り囲むように小さなタンパク質(アミノ酸が集まったもの)や
「何かがくっついた脂肪酸」が集まってできています。
ボール自体は水になじんでいるので、少なくとも表面は水好き(親水基)。
中央部に油が入っていた以上、
油に接している部分は水嫌い(疎水基)のようですね。
確かに、こうすれば「油にしか溶けないもの」を
水の中に溶かし込むことができます。
これが、クイズの答え。
答えになった小さなボールの形をしたものを「ミセル」と言います。
ミセルはマヨネーズ作り以外でも働いていますよ。
私たちの体の中で脂質(脂肪・脂肪酸)を吸収するときは、
このミセルの形を利用しています。
ビタミンには脂溶性のものもあります。
「脂肪なんか吸収しなくていいやー」なんて言わずに、
ちゃんとミセルを作ること!
胆汁酸がミセル作りを助けてくれることも覚えておきましょう。
…実は、先程のクイズの答えは1つではありません。
「水の中に『油とくっついて、沈まずに浮かんでいられるもの』を入れる」
これも答えです。
具体例としては、牛乳。
牛乳はその約87%が水分。
それ以外の脂質は約4%、タンパク質が約3%と続きます。
本来水嫌いな脂肪が、
水嫌い同士で集まって固まりにならないのはなぜか。
それは牛乳に含まれるカゼインタンパク質が
脂肪と手をつないで小さなボール状になってくれているから。
カゼインミセルという球体の直径は約30~300nm。
これぐらいの大きさだと、水の中で浮かびも沈みもせず、
水分子の中でふわふわと浮いていることができます。
この大きさのものが水中に溶けたものが「コロイド溶液」です。
コロイド溶液は10⁻⁷m~10⁻⁹mぐらいの粒が水の中で均一に散らばったもの。
カゼインミセルは3×10⁻⁷m~3×10⁻⁸mですから、ぴったりです。
コロイド溶液といえば、その特性はチンダル現象。
周りを暗くして透明なコップに入れた牛乳に、
横からペンライト等で細く光を当ててみましょう。
光を当てたところだけが、ぼんやり光るすじになります。
これ、光がミセルの粒にぶつかっているから。
暗幕を引いた教室や体育館で、
外からの光が差し込むところが光のすじになって見えるのも、チンダル現象です。
このときは、光がぶつかっているのは
舞い上がったほこりの粒ですね。
…これまた何の役に立つのかって?
これ、「血液中の『水に溶けないものを運ぶ』メカニズム」なんです。
次回はそこからおはなししますね。