5 電離平衡・中和(3):体のpHを守るために
胃液は胃酸とも呼ばれるpH1~2の液体。
理科で強酸の例として出される塩酸(HCl)とほぼ同じです。
なぜこんな強烈な酸がここに使われているのかというと。
口から入ってきた異物を殺すためです。
異物…細菌やウイルスといった侵入者のことですね。
強烈な酸なので、胃でもかなり取り扱いに注意しています。
「必ず、胃粘液のガードをしてから出すこと!」
そうしないと、胃の細胞まで殺されてしまいますからね。
胃から先に消化・吸収は進んでいきますが、
胃の中のもの(食べ物だったもの+胃液)が消化管をそのまま流れていくと
消化管の細胞も次々と死んでいってしまいます。
それは困るので、今度は膵液・腸液による「中和」のお時間です。
本来、中和というのは「pHをぴったり7にすること」。
だけど…体の中のおはなしでは
「大体中性付近にもっていく」ぐらいのイメージでオーケー。
「H⁺が濃い胃液とH⁺が薄い膵液・腸液を混ぜ合わせて、
水に近いくらいのH⁺の濃さにする」ことだと理解してくれれば、大成功です!
皮膚表面が弱酸性な理由も追加しておきましょうか。
皮膚に出る油(皮脂:脂肪酸)が酸化すると、
皮膚の表面は酸性に傾きます。
こうすれば、皮膚があることで体の中に入れなかった細菌たちが
足止めをされている皮膚の上で増えることを防げるのです。
酸とアルカリの強弱は
どれだけ中性(pH7)から離れているかで決まります。
理科(化学)の世界ではもう少し複雑な話がありますが、
みなさんは気にしなくていいですよ。
あとは二酸化炭素のおはなしですね。
「二酸化炭素は水に溶けると酸性!」
これは覚えてしまいましょう。
炭酸飲料を思い出してください。
あのシュワシュワ感は、溶けていた二酸化炭素の泡(気体)。
炭酸飲料をリトマス紙に付けると、赤く変わります(酸性を示しています)。
肺は、二酸化炭素を「ぎゅうぎゅうすかすか」で交換しています。
血液は水を多く含んでいます。
肺の二酸化炭素交換ペースが下がると血液は酸性に傾き、
交換ペースが上がるとアルカリ性に傾くのです。
このように肺が原因で血液が酸性に傾くことを「呼吸性アシドーシス」、
アルカリ性に傾くと「呼吸性アルカローシス」と呼びます。
肺以外の原因で血液のpHが傾くときには
「代謝性」の文字が頭に付きますよ。
ここでは代表例だけ紹介しておきますね。
代謝性アシドーシスは糖尿病・下痢・腎不全。
代謝性アルカローシスは嘔吐ですよ。
話を肺に戻して。
肺は二酸化炭素の排出量でpHをコントロールしています。
細胞から出た二酸化炭素は、
そのまま血液にのせて肺に届けようとすると血液が酸性に傾いてしまいます。
それは困るので、赤血球に助けてもらいましょう。
赤血球は二酸化炭素(CO₂)を中に取り込み、
水(H₂O)とくっつけて炭酸(H₂CO₃)にしてくれます。
これならH⁺が出てきませんから、血液のpHは動きません。
あとは肺に付いたら二酸化炭素を肺胞に出してぎゅうぎゅうすかすか交換。
水はそのまま血液の中へ。
このような赤血球の働きを「赤血球の炭酸水素緩衝系」といいます。
緩衝系とはpHの急変を防ぐ仕組みのこと。
赤血球の中で炭酸を作るので、「赤血球の炭酸水素(による)緩衝系」です。
こんなことをしてまで守る必要性のある血液のpH。
重要性、皆さんは分かってくれましたよね!