2 ケース2:手術は成功したけれど(3)

執刀医Bは「例外的なセーフ」でした。

ここでAがアウトになった理由を確認してみましょう。

「Aが何かやばそうなことに気付かなきゃいけなくて」

「そのやばい状態にならないように何とかしなくちゃいけなかったのに」

「それなのにやばい状態を生じさせてしまった」から、アウトでした。

とりあえずBは電気メス器具に一定の理解があり、

配線を直すことができたとしておきましょう。

…一気に、なぜセーフになったのか分からなくなりませんか?

そう。AとBはどちらも医療従事者。

しかも配線を直せたという意味でもAとBはほとんど同じです。

残るは「何かやばそうだの気付かなきゃいけなかった」点のみです。

 

え?

一般の人がやばいと思ったらそれで終わりでしょ?

 

普通はそうです。

でもBは「やばい」なんて微塵も思わなかったはずです。

だって「手術室大先輩のAがセットしてくれる電気メスに間違いはない」と

信じませんか?

「役割分担」…それがチーム医療というものですよね。

 

このように、その人が特に「やばそうだと思わなかった」理由があるなら、

それはアウトになりません。

もちろん、すべての理由についてセーフになるわけじゃありません。

逆に一般人であればやばそうだと気付かなくても、

その人が特に「やばい」と気付いていたら…アウトに一歩前進です。

「だって、やばいと気付いたなら

何とかしようと思うのが人間というものでしょ?」

これが、法律のスタンスです。

では、どんなときに「やばそうだと思わなかった」ことがセーフになるのか。

 

具体的に考えてみましょう。

あなたが運転をしているとき、

道を歩いているのが子供、成人、高齢者がいたら、誰の行動を信じられますか?

 

子供はいつ飛び出してくるか分かりませんね。

信用しちゃいけません。

高齢者もいつ自分ルールで道路を横断し始めるか分かりません。

こちらも信用しない方がよさそうです。

成人で、通常の判断能力があるなら、

相手は交通ルールを守ってくれるだろう…

そう信用してもいいですよね?

これが、他人を信じていいか考える基本です。

一定以上の知識・判断能力と経験があること。

そして相手もルールを守ることが期待されていること。

これなら、相手を信用してもよさそうです。

同じことが法律の世界にも言えます。

AとBは同じ医療従事者。

できる限りの力を持って、患者さんの身体・生命の安全を守ることが仕事です。

同じルールを守ることが期待されていますよね。

そしてAは病院手術室に勤務するこの道20年のベテラン看護師。

手術に用いる電気メスの事前準備については、

AはBと同じくらい…もしくはB以上の知識・判断能力・経験があるはずです。

そうであれば、BがAを信用するのは

一般的に考えて「仕方ないよね」と思えます。

裁判所も、それを認めたのです。

 

文章では刑法(刑事事件について定めた法律)にそんなことは書いてありません。

でも、アウトかどうか考えるときに

「やばい状態にならないように何とかしなくちゃ」を判断するところで

「…何とかしようと思わなくても、仕方なかったね…」とセーフにしてくれるのです。

アウトかセーフかは、

ちゃんと一般人の私たちが納得するように考えられているのですよ。