4 ケース4:輪郭のない世界(3)
医師Cについても確認しましょう。
まず、Cもやばそうと気付かなくちゃいけませんでした。
これは前回の補足した部分と同じ理由です。
次に、やばい状態にならないように何とかしなきゃいけなかったか。
CはAを担当した小児科医ですから、
Aの生命・身体に最善の注意を払わねばなりません。
ここで、やばいと気付くべき内容は「未熟児網膜症」。
だからこそ、Cは眼科医Dに眼底検査をしてもらったのですよね。
ここで、CがDを信用したことは問題になりませんよ。
ケース2の、信用してもいい条件…覚えていますか?
「一定以上の知識・判断能力と経験があること。
そして相手もルールを守ることが期待されていること。」
CがDを信用したことは、一般人なら「ならば仕方ないよね」といえるはずです。
結論として、Cは何かやばそうだと気が付いて、
そのやばい状態にならないように何とかしたのです。
結果的にやばい状態は生じてしまいましたが、
それはCのせいではありません。
Cは、できることを十分にしたのです。
だから、Cはセーフです。
アウトの条件を検討した結果、
Aの家族は医師Dに賠償請求ができることが分かりました。
「常に、全ての病院でこんなこと言われちゃうの…?
うち、個人病院なんだけど、こんなの無理だよ…」
急に自分のことが心配になった人、ひとまず安心してください。
裁判所や法律は、無理を言いません。
できることをしなかったなら、それはしっかりと非難します。
だけど、できないことに対しては「それは仕方なかったよね」と認めてくれます。
…でも、今ほっとした人は気を付けてください!
裁判所や法律の「できること」は、私たちの感覚と少し違います。
ケース4の事例を読んで、私たちはどんな期待をもってB病院を受診しますか?
まず、B病院には新生児センターがありました。
これはすべての病院にあるものではありませんね。
少なくとも新生児医療に対しては、結構レベルの高い病院です。
次に、この病院ではAの生まれる半年前から
小児科と眼科が未熟児網膜症に対する連携をとっています。
眼底検査で疑いあるときには、光凝固法が可能な病院に転院させてもいましたね。
それなら、Aの親は
「B病院なら、未熟児網膜症についてレベルの高い診断・医療が受けられる」
と期待するはずです。
続いて裁判所が何と言ったかというと。
…全部書くと難しいので思い切り省略しますが。
「実験の最先端の技術をもって医療を提供しろとは言いません。
診察当時の、臨床の現場で行われている医療を提供してくれればいいのです。」
ここまではいいですね。
裁判所は無理を言わない、いい例です。
「でも、あくまでも『その病院が要求される医療水準』で診察・治療してください。
B病院さん、
あなたが未熟児に対して要求されている医療水準はかなり高いですよ。
だって、新生児センターを作って他の病院から新生児を受け入れていますよね。
眼科と小児科の連携体制をとって、
未熟児網膜症の発見・治療に努めていましたよね。
だとすると、未熟児網膜症の検査について
それなりの水準を要求してもかまいませんよね?」
裁判所が要求しているもの、
それは「病院が具体的にその地域で占める役割に見合ったレベルの医療」です。
しかも裁判所は光凝固法の機械の有無を問いませんでした。
とどめに、当時光凝固法は確立治療になっていませんでした。
「未確立治療でも他の病院の器材有無を把握しなきゃいけないの?!」
あくまでB病院のレベルなら、という話です。
地域で果たすB病院の役割水準からすれば、
行政(厚生省)の報告書が出てから
そのレベルに追いつこうだなんて、遅いよ!…と言っているのです。
病院はその要求水準を満たすべく、
医療従事者の医療水準を引き上げる必要がありますよ。