6 ケース6:最後の親孝行?(2)
裁判所が「かわいそうだよね…」と軽い刑罰を選んでくれたことには、
ちゃんと根拠がありますよ。
これを書いている現在(2018年9月)、
人殺しのアウトは5年以上(事例当時では3年以上)の刑務所暮らしの可能性だけではなく、
無期懲役や死刑もあり得ます。
無期懲役は読んで字のごとく、期間が定まっていない刑務所生活。
死刑は…いろいろ議論はありますが、
アウトになった人の生命を終了させるもの。
なんとも、紹介するだけでも気が重くなりますね。
とかく、このような重い人殺しのアウトなのに、
裁判所はBを懲役2年、しかも2年の執行猶予つきにしてくれました。
特例中の特例、大サービスもいいところです。
補足しないといけませんね。
この「大サービス」は酌量減刑といいます。
やむにやまれぬ事由があるときに、
「しかたないよね、どうしようもなかったんでしょ?」と
裁判所が刑法に書いてある条文よりも刑を軽くすると宣言することです。
大サービスのおかげで、Bの刑務所暮らしは2年で済みそうです。
でも「アウト」であることには変わりありません。
…さらに補足すると。
Bは「2年の執行猶予」が付きました。
これは「その期間中にさらにアウトになる行為をしなければ、
刑務所に入らなくてもいいよ」という更なる大サービスです。
…でも、刑事でアウトになったことには、何のかわりもありませんよ。
では、話を変えて。
こんな事件で医師がセーフになることはあるのでしょうか。
裁判所は、以下の条件を満たしたならセーフだよ、と言いました。
「①患者が耐え難い肉体的苦痛に苦しんでいて、
②患者の死は避けられず、死期が迫っていて、
③患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし、
他には代替手段がなく、
④生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること」です。
これらがそろったら、患者への致死行為は「積極的安楽死」として
医師はセーフになりますよ…と言ったのです。
ちょっぴり用語説明。
積極的安楽死とは、積極的に、安楽死を行うこと。
安楽死というのは、生命を絶たれる人の自発的意思に基づいて、
医師が自殺を助ける行為を行うこと…とされています。
薬を投与すれば、積極的安楽死。
点滴を外し、栄養チューブを抜いたら、消極的安楽死です。
積極的・消極的とは「生命終了に向けての働きかけが積極的か」という意味です。
裁判所の条件を読んで、どう思いましたか?
思っていたよりも簡単で、すぐにクリアできそう?
…本当に、そうでしょうか。
1つずつ、考えていくことにしましょう。
①の耐え難い肉体的苦痛について。
最近は疼痛コントロールが進んでいます。
それでも耐えられないほどの苦痛にさいなまれるときは、
どれほどあるでしょうか。
…しかも、ちゃんと事件を読み返してみてください。
Aは、疼痛に反応していませんでした。
そう、除去・緩和したい苦痛を患者が感じていないのです。
こんなときに安楽死をしてしまったら、アウトです。
同時に気付いてほしいのが「精神」の文字がないこと。
どんなに耐え難い精神的苦痛を感じていても、安楽死は許されないのです。
ここ、実際の問題が多いところです。
みなさんは、脳神経系疾患の多さ、症状はイメージできますよね。
脳神経系疾患の種類によっては、肉体の痛みなく自分の体が動かせなくなります。
自力で出来ることがなくなって、
絶望して、命を絶とうと自己決定しても…。
現在の裁判所の要件では、①をクリアできずにアウトなのです。
②以降は、次回考えましょうね。