6 ケース6:最後の親孝行?(1)

法律医療のおはなし、とりあえず最終テーマです。

最初のケース1と同様、

「医療倫理」でもよくお目にかかる事件ですよ。

 

(事件紹介ここから)

Aは末期癌で余命数日と言われ、

いびきのような呼吸で、痛み刺激にも全く反応しない状態になっていました。

 

BはAの担当医でしたが、

Aの長男Cから治療行為の中止を強く求められました。

そこで午後0時に、Aの点滴と尿用のカテーテルを外しました。

 

「早く家に連れて帰りたい、楽にしてやってください」と

さらにCから言われ、Bは午後6時半に鎮静剤を通常の2倍量投与しました。

この薬はいびき抑制のために用いられますが、

呼吸抑制の副作用もあるものでした。

 

さらに午後7時には同様に呼吸抑制の副作用のある抗精神病薬を

これまた2倍量投与しました。

 

しかし、Aは相変わらず苦しそうな呼吸を続けており、

「何をしているんですか!早く連れて帰りたいんです!」と

CはBに詰め寄りました。

Bは仕方なく、不整脈治療薬(副作用は一過性心停止)を2倍量注射し、

続いて心停止を引き起こす薬を原液のまま注射しました。

これにより、Aは死亡しました。

(事件紹介ここまで)

 

最後のケースにして、おそらく最も難しい問題です。

懸命の治療をしたけど、残念ながら…という形で、

患者さんの死に立ち会うことはあるはずです。

だけど、このように患者さんの家族に死を依頼されてしまうことも

可能性としてはあり得ます。

 

先に言っておく必要がありますね。

このケースについては、個人の価値観がすごく出てきます

どんな状態でも、1秒でも長く生きていたい人がいます。

自分が五体満足であっても、

生命を早く終わらせたいと願う人もいます。

自分が理解できない考え方が出てくることもあるでしょう。

それこそが、

このケース6を理解するうえで、かなり大切になってくることです。

いろいろな考え方、価値観の人がいる。

この事実を忘れないでください。

 

もはや恒例。

結論を先に言ってしまうと、医師Bはアウトです。

しかも刑事アウトの中でも、最も重いアウト。

「人殺し!」と非難されてしまうアウトです。

でも、あなたはBを「人殺し!」と非難する気になれますか?

事実だけ見れば、Aという人間を殺したことに他ありません。

だけど、それはAの子Cに散々患者の死を依頼された結果ですよね。

 

実際、裁判所もアウト宣言しつつも

「さすがにかわいそうだよね」と思ってくれたようです。

人殺しのアウトの中でも、かなり軽い刑罰を選んでくれました。

ちょっと細かい話をしないといけないので、

アウトの内容等については次回にしますよ。