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2 総論:ヒトと微生物の関係(3)

話を口の中に戻しましょう。

もっとも、口腔内に細菌のえさになる食物のかけらが多くあり過ぎると、

ミュータンス菌(いわゆる「虫歯菌」)などが酸を作りすぎて、

「ヒトにとって悪さ」をし始めることになります。

虫歯(齲歯:うし)、歯槽膿漏ですね。

 

このようにヒトと仲良く生活している(共存している)常在細菌が、

ダメダメになってしまうことがあります。

例えば病気にかかって、抗生物質を長期間飲むと…。

病気の原因になった菌に効いてその菌が死ぬだけでなく、

常在細菌にまで薬が効いて常在細菌数が激減してしまうことがあります。

こうなると「普段は悪さをしない菌」が、

「悪さをする菌」に変わることがあります。

周りを見ていいやつばかりなら、自分も「いいやつ」でいる。

いい奴が減ったら、おもむろに悪さをし始める…これが日和見菌です。

 

日和見菌が悪さをする代表例が免疫不全状態における日和見感染。

ヒトの免疫が正常に働いているときには、

ヒトにとって「よいことも悪いこともしない菌」なのですが。

ヒトの免疫がうまく働かない状態(免疫不全状態)になると、

カビをはじめその辺にいる身近な微生物のせいで肺炎等が起こってしまいます。

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)による

AIDS(後天性免疫不全症候群)で問題になる、

ニューモシスチス肺炎やアスペルギルス症が代表例ですよ。

 

日和見感染ほどひどいことにはならないとしても…

抗生物質などの薬で正常な常在細菌が減ってしまう

「異常事態」が起こることがあります。

そのとき、

普段は増えないある種の細菌が異常増殖するのが「菌交代現象」です。

おそらく薬理学で勉強するとは思いますが、

(クロストリジウム・)ディフィシル関連下痢症はその代表例。

膣炎の1つ「膣カンジダ症」も、

普段増えられないカンジダ(真菌)が増えたせいですね。

そこまでひどくならないとしても、

常在菌減少で水分吸収が不十分になる下痢が起こる可能性があります。

経口避妊薬等特定の薬が吸収不十分になることもありえますからね。

常在細菌が変になると、私たちの体に不具合が出てきてしまうのです。

 

以上、微生物とヒトの関係を確認してきました。

…「悪さをする」ものばかりではないこと、分かってくれましたか?

 

とはいえ「悪さをする」微生物が体の中に入ってきて、

病気になってしまったら困ってしまいますね。

だから、ヒトの体には免疫に代表される防御機能があります。

微生物の侵入経路を確認しつつ、

生化学等で勉強した免疫について復習していきましょう。