4 皮膚・粘膜のおはなし(4)
皮膚の傷の治り方、応用編。
まずは「縫う」おはなしからです。
手術の傷のように、鋭い刃物で切られた傷。
このとき傷口を縫い合わせる目的はまず「感染予防」。
皮膚は身体の表面を覆う物理防御。
そこに切れ目があったなら、
異物(細菌やウイルス等)は侵入し放題です。
必要があって皮膚を切った以上、
用が終わったらすぐにふさがないと防御の意味がありませんからね。
また、「乾燥予防(イコール湿潤順環境維持)」のためでもあります。
細胞の周りは、普段は組織液でみたされています。
ところが皮膚に穴が開いてしまうと、
そこから水分がどんどん蒸発していってしまいます。
本来、角質層と皮脂、汗の混合物で皮膚表面にバリアをはっていても
「不感蒸泄」として水分は蒸発していってしまうもの。
そのバリアに切れ目があったら、水分は逃げ放題。
乾燥してしまった環境では、細胞は思うように増えることができません。
これでは、傷の治りが遅くなってしまいますね。
だから、細菌等の侵入がないなら、一刻も早くふさぐこと。
これが傷を「縫う」意味です。
これを意図的に行っているのは手術。
細菌等が入り込まないように空間・道具(滅菌)も、
人体表面もきれい(消毒)にしたうえで、
皮膚を切って(皮膚にとっては切り傷:切創)、
中の筋肉はじめ各器官等の変なところを切り取った後、
すぐに皮膚等を特殊な糸で縫ってしまいます。
こうすれば、感染はなく(あったとしても最小限)、
すぐに皮膚を縫い合わせるため乾燥も起こりません。
皮膚の細胞にとっては
「ん?なんかあった気がしたけど…気のせいかな?」
ぐらいの影響で済みます。
これなら、かなり早く皮膚の傷は治りますよ。
特殊な糸は時間経過で溶けてしまいますので、
「糸を抜く(抜糸)」必要もありません。
ここで思い出してください。
皮膚と粘膜の違いの1つに「粘液」がありましたね。
粘液が出ている粘膜の炎症が早く治るのは、
粘液中の酵素による殺菌と保湿能力のおかげでした。
皮膚は、手術のように縫合してもらえない限りは、
「保湿」が後回しになってしまいますね。
もっとも、焦って先に表皮を修復させては
止血不十分、微生物の感染発生等の
「もっと困ったこと」が起きてしまいます。
だから皮膚の傷の治りは遅くなることは仕方ないのです。
逆に、微生物侵入がなく、止血も十分なら、
傷の部分は保湿してあげれば早く治ります。
これが「傷を保湿して治す(湿潤療法)」原理ですね。
褥瘡管理等で耳にする機会があるはずですよ。
次回は、
アトピー(アトピー性皮膚炎)の基本のおはなしです。