1 ケース1:え?輸血した?(5)
前回考えた説明不足の原因。
①「忙しいから、説明する時間が惜しかった」
②「細かい説明をする習慣がなかった」
③「C病院の治療スタンスを伝えたら、
Aが別病院を探して手遅れになってしまうかもしれない…
医療従事者としてそれは見逃すとこができなかった」
これらをどうすればよいのか、一緒に考えていきましょう。
①⇒あらかじめ説明するための用紙を準備しておき、
個別的事情があるときだけ追加で書き込めばいいですね。
これは多くの病院で実際に使われている「手術同意書」ですね。
書類ケースから出して、患者さんに見せて、大事なところを読んで…
こんな時間すらないとは考えにくいですよ。
②⇒「全てお任せします」なら、
お任せされた内容を同意書に書けばいいですね。
年配の方に多い「全部お任せ致します」も、立派な魔法です。
でも、どんな情報を得て「お任せ」になったのか分からないと、
今回のように後から魔法の効力を問われることもあるのです。
どこまで情報を提供した上で「お任せ」だったのか。
その旨を書面で明らかにしておけばいいのです。
これもテンプレートを作っておけば、サインだけですぐにできますね。
③⇒手遅れになっても、それはAが情報をもとに大事なものを選んだ結果です。
おそらく、医療倫理と絡んで一番問題になりそうなところですが。
極論すると、これこそがキーワードそのものなのです。
仮に、C病院のお医者さんが病院としてのスタンスを説明したとします。
現状で考えられる輸血の可能性も、正直にAに伝えたとしましょう。
想像の域を出ませんが…Aは手術を受けないでしょう。
例え手遅れになるとしても、無輸血病院を探し回り、
その命の灯が先に尽きたとしても、宗教に殉じた一生を安らかに終えることでしょう。
命は地球より重いと言い切った人もいましたが、
命の長短よりも大事にしたいものがある人もいるのです。
魔法をかける選択権は、あくまで患者さんにあるのです。
…みなさん、ちゃんと自分のこととして考えていますか?
この話は医療行為をするすべての人に当てはまります。
これからすることは何か。
何のためにするのか。
何が起きて、どんな不具合の可能性があるのか。
これらを説明して、患者さんに魔法をかけてもらっていますか?
最初に感じたドッキリ感。
「医療行為は、法律的にまじめに考えるとアウトになりうる」
これは絶対に忘れないでください。
患者さんが、自由なこころとからだで、
情報を十分に与えられたうえで「傷つけてもいいよ」とあきらかにすることが、
医療職を救う魔法です。
毎日の業務に、魔法がちゃんとかかっていることを確認してくださいね。
さもないと「アウト!」ですよ。