11 各論5:細菌(2)桿菌のグラム陽性(3)
(b) マイコバクテリウム属:結核菌・らい菌
このマイコバクテリウム属は「抗酸菌」として有名です。
一度フクシン系の赤系色素に染まると、
酸で脱色されないのが「抗酸性」。
抗酸性を持つ細菌のグループが、「抗酸菌」です。
結核菌、非結核性抗酸菌、らい菌が含まれます。
結核菌は痰や咳から飛沫核感染(経気道感染)する「結核」の原因菌。
ヒト体内に入ると、肺に初感染巣を作ります。
乳幼児や免疫機能が不十分な状態で感染すると、
いきなり全身に粟粒のような感染巣のできる急性粟粒結核を起こして、
死に至る可能性があります。
肺の初感染巣が気管支につながると
痰や咳で体外に菌が出るようになります。
これが開放性結核と呼ばれる感染力のとても強い状態です。
ただし、全ての結核が開放性結核になるわけではありません。
感染後、咳等の徴候の出ない
潜在性結核感染症(LTBI)になることもあります。
これは「非活動性の結核」ですね。
でも、体力低下、ストレス等によって
免疫担当細胞の白血球たちがフルパワーで働けなくなると、
おとなしくしていた結核菌が
急に活動モード(活動性結核)に入ることもあります。
肺の初感染巣からリンパ節を経て胸膜に行くと「結核性胸膜炎」。
骨髄に行くと脊椎カリエスや髄膜炎。
関節に行くと関節結核。
他にも腎臓や膀胱、卵巣や精巣上体等で炎症を起こします。
呼吸器系にとどまらぬ、
立派な全身疾患になってしまう可能性があるということですね。
このように感染してしまうと
いつなんどき暴れ出すか分からず大変なので、ワクチンで予防です。
まずは結核菌に対する免疫状態を確認するためにツベルクリン反応。
Ⅳ型過敏症の代表例ですね。
48時間後に10㎜異常の腫脹(膨れ)・発赤(赤味)が出たら、
結核菌に対して免疫があります(判定(+))。
9㎜以下なら免疫がないので、BCG注射です。
BCGは毒性がなく、免疫を作る力だけがあるウシ型結核菌の生ワクチン。
死んだ結核菌ではうまく免疫を獲得できないので、
生きている結核菌を体内に入れる必要がありますよ。
3~5週間後に局所反応(小さな盛り上がり等)が出たら、
免疫獲得のサインです。
もしもBCGから数日内に強い局所反応(コッホ現象)が出たら、
再検査が必要になります。
コッホ現象は「すでに感染している人」の反応。
すぐに治療が必要になってきますからね。
結核の治療は多剤併用療法。
イソニコチン酸ヒドラジド(イソニアジド:INH)、リファンピシン(RFP)、
ピラジナミド(PZA)の3種類と、
エトンブール(EB)かストレプトマイシン(SM)の計4種の薬を、
6~9か月しっかり飲む必要があります。
結核菌と同じ抗酸菌グループの非結核性抗酸菌の一群。
こちらには病原性がないものが多く、
病原性があっても健康な人には悪さをしません。
ただ、日和見感染を起こすと肺や皮膚、
表在リンパ節に結核に似た症状が出てきます。
薬に対する耐性も似ているので、
悪さをし始めてしまうとかなり厄介な相手になってしまいますね。
らい菌はハンセン病の原因。
感染力は高くありませんが、
乳児と母親のように密接な接触があると感染します。
感染すると皮膚や粘膜、神経に増殖性の炎症が出てきます。
病変部にあまりらい菌がいないのが「結節型」。
細胞性免疫がうまく働いたため、周りに広がらない限局型です。
逆に病変部にたくさんらい菌がいるものが「らい腫型」。
こちらは抗体ができても、
細胞性免疫が追い付かずにらい菌が増えてしまいました。
「らい球」と呼ばれるらい菌の凝塊ができています。
「らい腫ではないけど、結節型よりも多い」ものが「中間型」です。