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11 各論5:細菌(2)桿菌のグラム陰性(4)

(ⅲ) サルモネラ属

サルモネラ属の多くは脊椎動物の腸管内常在細菌です。

ただし、その中の一部が食中毒による胃腸炎や

「チフス様疾患」の原因菌になります。

 

食中毒の原因になるときには、

豚・牛・鶏にいるサルモネラ属が悪さをします。

特に鶏卵は卵の殻の外(排卵時に感染)だけでなく、

殻の中(卵巣内に感染)にいることもあります。

日本では鶏のサルモネラ属に対する管理が進んでいるため

生卵を口に出来ますが、

海外で同じことをしたら…

サルモネラ属細菌が入っていてもおかしくありませんよ。

サルモネラ属細菌による食中毒では、

頭痛・発熱・嘔吐・腹痛・水溶性の下痢が2日ほど続きます。

 

「チフス様疾患」というのは、高熱が出て顔が赤くなり、

意識がもうろうとする状態を引き起こす病気のこと。

チフス菌が原因の腸チフス、パラチフス菌が原因のパラチフス。

どたらもサルモネラ属所属菌によるチフス様疾患です。

どちらのチフスも、便から水・食品を経由して体に入る経口感染。

小腸で粘膜に侵入し、

リンパ節で増えて、リンパ管から血液へと流れ出していきます。

そうすると全身の前駆症状(倦怠感や食欲不振)スタート。

続いて悪寒と発熱…ひどいときには昏睡状態に陥ることもあります。

薬は効きますが、

体内で生き残り慢性保菌者(ずっと便に菌が出る)こともありますからね。

 

(ⅳ)エルシニア属

世界史でおなじみのペスト菌がいるのがエルシニア属。

ペストは媒介動物(ノミ)が必要な、

野生ネズミやリス(げっ歯類)からのペスト菌経皮感染です。

中世ヨーロッパでは穀物を住居の地下室に保存していたので、

ネズミが人家で生活し、

ヒトがノミに噛まれやすい環境になってしまいました。

ペスト菌に感染すると、リンパ節が腫れて痛み(疼痛)ます。

これが「腺ペスト」。

リンパ球の働きでペスト菌を抑えられないと、

ペスト菌は肺で増えだします。

これは「肺ペスト」ですね。

咳の中に菌が出て、エアロゾル化し、

ヒトからヒトへと飛沫感染していきます。

肺ペストはチアノーゼを起こして、

顔色(粘膜・皮膚一般の色)が悪くなります。

別名の「黒死病」はこのせいですね。

血液中に菌が増え、白血球総出の防衛結果が…敗血症ショック。

これが主な死因で、薬で治療しないと「ほぼ100%」死に至ります。

 

ペスト菌ほどの怖さはありませんが、

食中毒原因菌の腸炎エルシニアもこのグループの一員。

5℃の低温でじわじわ増えることのできる、家畜等の腸管にいる菌です。

ハム、ソーセージ、乳の殺菌が不十分だと、

腸管エルシニアに入り込まれてしまうかもしれませんよ。

 

(ⅴ)セラチア属

腸内細菌科の最後はセラチア属。

これは尿路感染症の原因菌です。

菌血症を起こして、院内感染からの死亡例もありますよ。

「どうして尿路から菌血症?」と思ったら、

尿路と腎臓の関係を思い出してみましょう。

「逆行性感染で、腎炎を起こすことがある」まで確認できれば、

あとは腎臓の血流量を思い出すだけですね。

特に尿道が短く、肛門との距離が近い女性では注意です!