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1 総論:微生物の大まかな分類(4):細菌の培養と薬剤耐性

採取した細菌を増やすために必要なものを確認。

今までおはなししてきたところだと、

確認したい(増やしたい)細菌に合わせて

酸素の有無(好気性、通気性、嫌気性)と、

栄養の種類を選ぶ必要がありそうです。

寒天を土台に、細菌にとって必要な栄養を入れたものが培地。

さらに他の細菌は増えにくい環境にしたものを選択培地といいます。

こうしておけば

「全く細菌が増えなくて、何がいるのか分からない!」ことも、

「細菌が全種類増えすぎて、何が何だか分からない!」ことも

防げるというわけです。

 

他にも、細菌が増えるために必要なものがあります。

細菌だって細胞…とくれば、

「ちょうどいい温度(至適温度)」と

「ちょうどいい酸性・アルカリ性度合い(至適pH)」が

必要になることは分かりますね。

ヒトにとって

平熱(体温)と血液pH正常域が大事なことと変わりまりません。

その理由は細胞内の酵素のせい。

酵素はタンパク質が主成分の、

化学反応を進めるための触媒(生体触媒)でしたね。

 

そして「タンパク質」とくれば、

「セントラルドグマ」の存在を忘れてはいけません。

セントラルドグマは、

DNAの遺伝情報をもとにmRNAを経て、

アミノ酸を順番通りにつなぎ合わせて

タンパク質の1次構造を作る一連の流れ。

細菌の遺伝情報も、2本鎖DNAによって伝わります。

DNAは、1細胞に必ず1セット。

細胞が増殖する(細胞分裂)ために必要なものや必要な事前準備も、

「生物」や「生化学」で勉強してきた通りです。

 

細菌の分裂から分裂までを一世代といいます。

普通の細胞なら「細胞周期」ですね。

細菌の種類によって一世代にかかる時間は決まっていて、

これを「世代時間」よ呼びます。

多くの細菌の世代時間は約30分。

「1時間に1つの細菌が4つになる」と書くとあまり早く思えませんが、

この先は急に増え方が急になりますよ。

興味のある人は自分で計算してみてください。

細菌がたくさん増えるとコロニー(集落)ができます。

ここまでくると、肉眼でも「いるぞ!」と分かる状態です。

 

DNAと細胞分裂の基本を思いだせたところで、ちょっと応用。

細菌固有の情報としてプラスミドというものがあります。

これは本来のDNAとは別の2本鎖DNAが輪状(輪ゴムの形)をしているもの。

プラスミドが他の細菌に伝わる(接合して伝達)ことで、

記録された情報が他の細菌にも伝わっていきます。

伝わる情報の代表が「薬剤耐性」です。

 

薬が効くところの構造が変わって、

薬に対して生き残れるようになったものが薬剤耐性菌。

「(その細菌は、その薬に対して)耐性を得た」とも言います。

薬に対する耐性情報はプラスミドの中に記録されます。

薬の中で細菌が増えるとき、

生き残った菌(本来の耐性菌)の増殖はもちろんですが、

プラスミドの接合によって新たに耐性を得た菌も増殖できるのです。

おそらく、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)や

VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)などの名前を

これから目にすることになるはず。

そのときには「あっ!プラスミド!」と思い出してくださいね。

 

以上が「生物」組。

真菌、原虫、細菌でした。

残るは「生物?」のウイルスですね。