6 総論:個人(?)レベルの侵入を減らす方法(7)
スタンダード・プリコーション(標準予防策)は、
全ての患者さんと医療スタッフに適用されるもの。
「この人はヤバそう(病原性微生物がいそう)」、
「この人は問題なさそう」ではなく、
「誰にどんな微生物がいてもいいように」(プリコーション)です。
微生物は目に見えず、症状の出る前に感染する可能性があることは、
今までの勉強から分かっていますよね。
それをもとに
「(少なくとも医療スタッフは)移されない、広めない」ためのものが
スタンダード・プリコーションです。
「感染の可能性がある」と注意を払う対象は、
「血液と全ての体液(汗を除く)」、「分泌物、排泄物」、
「粘膜と健常ではない皮膚」です。
…感染の可能性がないものは「健常な皮膚と汗」だけですね。
常に患者さんとの接触時(ケアや処置等)ではプリコーションが必要です。
直接患者さんに触るケア・処置等のときに欠かせないのは「手袋と手洗い」。
手袋をしても、手袋を外した直後は手洗いが必要になりますよ。
水と石けんを使う洗浄法と、速乾式消毒薬を使う擦式法があります。
浸漬法もありましたが、近年はあまり使われません。
各方法のやり方を確認すると、その理由も分かります。
擦式法(ラビング法)は、
速乾性エタノール(を主成分とした消毒薬)を使って(約3㎖)、
30~60秒間爪、手のひら、手の甲、指の間、手首にすり込む方法。
薬が乾いたら、消毒完了です。
一度やってみると分かりますが…結構時間がかかります。
しかも手荒れがあるとエタノールがしみてかなり痛みます。
日々、手荒れを起こさない注意が必要ですね。
やっていることは単純なのに実は大変なのが洗浄法(スクラブ法)。
石けん(や液体消毒薬)を適量とり、泡立てて30~60秒のもみ洗いをします。
爪、手のひら、手の甲、指の間、手首と洗うところは擦式法と変わりません。
でも、その後15秒以上洗い流し。
最後にペーパータオルで十分に乾燥させるところまで必要になります。
水栓やペーパータオルを取り出すところも不用意に触ってはいけませんよ。
足ペダル式の水栓が多いのはそのためです。
他人と共用することになる手拭きタオルなんてもってのほかですよ。
ここまで確認したうえで、浸漬法(ベースン法)。
あらかじめ作っておいた消毒薬の中に30秒以上手首まで漬けてから、
もみ洗いをして、ペーパータオルで十分に乾燥させるもの。
後半は洗浄法と同じです。
前半は…
消毒薬に耐性のある菌は、消毒薬の中で増殖する可能性がありますね。
しかも消毒薬の濃度を微生物に効く適切なものに保つためには、
1日数回交換が必要です。
手間が増えた割に、効く微生物が増えるわけではありませんから、
便利な洗浄法とは言えませんね。
だから浸漬法が減り、洗浄法と擦式法が主流なのです。
具体的手技については、基礎看護(実習等)で身につけてくださいね。
手洗いをする必要があるのは、
「患者さんに触れる前」、「患者さんに触れた後」、
「患者さんの周辺物に触れた後」、「清潔・無菌操作の前」、
「血液等に曝露された可能性のあるとき」です。
患者さんや周辺物に触れた後や、
血液等曝露の後についてはすぐ分かりますね。
かたや「患者さんに触れる前」や「清潔・無菌操作の前」は…
こちらは自分の持っている微生物を患者さんに移さないためです。
常在細菌の存在を思い出してくださいね。
もちろん医療職が病原性微生物の感染ルートになってしまうことだけは、
何としてでも防ぐ必要がありますよ。