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10 核酸・遺伝子のおはなし(13)

2022年5月30日

今まで紹介できなかった、この分野のおはなしの補足です。

抗生物質はなぜ細菌に効くのか、というおはなし。

 

抗生物質は、

細菌を殺す・増えられないようにするお薬のこと。

おそらく、病院にかかると1回は出されたことがあるはずです。

親知らずを抜く「抜歯」でも、歯医者さんで処方されますね。

「5 タンパク質」でおはなししたように、

薬は酵素の「何か」を邪魔するものが大部分です。

ではこのお薬は何を邪魔しているのかというと。

抗生物質は、細菌のリボソーム内酵素を邪魔しています。

リボソーム…タンパク質合成工場でしたね。

タンパク質ができないと、酵素ができない。

酵素ができないから、

細菌は生きていけない…というわけです。

 

あれ?

ヒトの細胞、どうして大丈夫なの?

 

そこが心配になりますよね。

でも、ご安心ください。

ヒトのリボソームと細菌のリボソームは、

ちょっとサイズが違います。

サイズが違うということは、

「細菌用の薬でヒトのリボソームは邪魔されない」ということです。

もちろん、すべての抗生物質が

「細菌用リボソームに特化した邪魔」をするわけではありません。

ヒトリボソームにも悪影響を及ぼすものもあります。

とはいえ、ヒトに悪影響(副作用)が大きいものは、

どうしても使いにくいもの。

だから一般的には

「細菌用リボソームだけを邪魔する」薬が、抗生物質です。

 

なお、ウイルスには抗生物質のような

「これ!」というものはありません。

比較的ウイルスに共通するところを邪魔する

「抗ウイルス薬」はありますが、

そんなにピンポイントに効果が出るものではありません。

邪魔しようとしたところの構造がすぐ変わってしまうからです。

「RNAはすぐに変わっちゃう!お直しがない!」

遺伝子治療・遺伝子組み換え食品で出てきたことが、

ここに関係してくるのです。

また、ヒトの細胞を利用して増えるから、というのも理由ですね。

ウイルスには設計図にDNAを使うもの(DNAウイルス)と

RNAを使うもの(RNAウイルス)があります。

どちらも細菌のように

自分専用のリボソームなんか持っていません。

入り込んだ(感染した)細胞のリボソームを使って、

自分(ウイルス)を増やすからです。

だからウイルスは自分の設計図と、

「他の細胞を使うときに必要な道具」だけ

持っていればいいことになります。

例えば、遺伝子治療・遺伝子組み換え食品のところで出てきた

「逆転写酵素」ですね。

だから、抗生物質のように

ウイルスを狙い撃ちすることは難しいのです。

 

以上、抗生物質についてのおはなしでした。

リボソームの働きと酵素についての復習ができましたね。

細菌とウイルスについては、微生物学等で勉強できるはずです。

ちゃんとDNAとRNAの違いを意識しながら、

微生物学等の理解もどんどん深めてくださいね。

 

【今回の内容が関係するところ】(以下20220530更新)