10 各論5:体温(感染・免疫):②細菌に効く薬(1)

細菌に効く薬(抗菌薬)のおはなし、スタート。

細菌はヒトと違って原核生物で、細胞壁もち。

細胞壁の外側には移動用の鞭毛や全体を覆う線毛、

他の細胞にくっつきやすいペタついた莢膜がある…。

これ、微生物学のおはなしですね。

 

「少なくともヒトの細胞にはない細胞壁を邪魔すれば、

ヒトには害のない薬ができるぞ!」

これが抗菌薬の一種「抗生物質」のスタートです。

他にも細菌に効く薬はありますが、それは後回し。

まずは身近な「抗生物質」と呼ばれる

お薬の一群についておはなししますね。

 

病院(歯医者も)にかかるとよく出てくる抗生物質。

ここには、とても多くの薬が含まれます。

まずは「細菌を殺す(殺菌)」と、

「細菌を増やさない(静菌)」にグループ分けしてみましょう。

「細菌を殺す」はさらに細菌を退治する気満々なグループと、

やっていることは増やさないだけなのに

結果として細菌が死んでいるグループに分けられます。

前の一群が「βラクタム系」、

後ろの一群が「アミノグリコシド系」です。

 

βラクタム系は、βラクタム環というものを持つ薬のこと。

細胞壁を狙い撃ちする薬です。

ヒト細胞には細胞壁がありませんから、ヒト細胞には悪さをしません。

これを「選択毒性がある」といいます。

ペニシリン系とセフェム系が2大グループです。

すごくたくさんの薬がここに含まれるので、あまり深入りはしませんよ。

抗生物質の始まりである

アオカビから生まれた「ペニシリン」や、

耐性菌の名前の一部として有名になってしまった

「メチシリン」がβラクタム系の一員だと分かれば、オーケーです。

 

ヒト細胞には悪さをしない、細菌は殺してくれる。

βラクタム系抗生物質は、発見後どんどん使われました。

しかし耐性を持った菌が見つかり、

「抗生物質が効かない!」と大問題になったのです。

 

耐性菌の始まりは、抗生物質の中で運良く生き残った

ごく少数の菌だったはずです。

細菌はすべてが均一な遺伝情報を持つわけではありません。

ちょっとしたことで塩基が変わり、タンパク質が変わり…

各種変異の偶然で、

薬が十分に効かない種類ができることがあるのです。

このような耐性菌はごく少数の生き残りなので、

菌叢(細菌類の集まり:きんそう)が通常状態なら、

表舞台に出てくることはありません。

でも中途半端に薬(抗生物質)が体の中に入り、

薬が効く細菌は死に、耐性菌は生き残りかつ増えられる状況下になると…

耐性菌の天下到来です。

だから、薬はお医者さんの指示なく途中でやめてはいけませんよ。

 

一度耐性菌が増えると、

他の菌に対しても耐性が伝わっていきます。

細菌にとりつくバクテリオファージを介して伝わることもあれば、

細菌同士がくっついてプラスミドという情報を分け与えることもあります。

耐性菌がバラバラになった後のDNA断片が

他の菌に入り込む(DNA断片侵入)こともありますよ。

 

耐性菌の代表はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)。

他の菌にもメチシリン耐性は広がってしまい、

便利だったβラクタム系抗生物質が使いにくくなってしまいました。

そこで他の薬を探すべく、どんどん抗生物質は改良されていきました。

次回、改良後のおはなしにうつりますね。