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1 総論:微生物の大まかな分類(5):ウイルス(1)

ウイルスは「細胞」からできていません。

遺伝情報のウイルスゲノムと、外側をとりかこむ殻(カプシド)。

以上です。

殻の外側にエンベロープ(脂質二重膜)をまとっていることもあります。

ウイルスゲノムは、

DNAに書いてあることもRNAに書いてあることもあります。

DNAを使うものがDNAウイルス。

DNA鎖は1本鎖のことも、2本鎖のこともありますよ。

RNAを使うものがRNAウイルスですね。

 

そして大事なこと。

ウイルスは、自分1人では増えることができません。

生物の細胞に入り込んで、

その細胞小器官を借りないと増えられないのです。

だからウイルスの増殖は「(細胞)分裂」ではなく、

「複製(つまりフルセットコピー)」になります。

コピーができたら、その細胞から脱出(放出)して、

他の細胞に入り込みに行くのです。

 

そのため、ウイルスの表面は

生物の細胞にくっつきやすい(吸着)ようになっています。

エンベロープの表面に糖タンパクがあると、

ペタついてくっつきやすくなります。

うまく細胞にくっつけたら、

ウイルス自身が細胞内に入り込み(エンドサイトーシスされる)、

細胞内にウイルスゲノムを注入します(脱殻)。

そして細胞の核内で、

セントラルドグマを利用してDNAからRNAを作り(転写)、

さらにタンパク質を作ってもらい(翻訳)、殻が完成。

同じ要領でウイルスゲノムDNAも増やしてもらい(複製)、

完成したら殻と組み合わせます(集合)。

あとは細胞の外に放出すれば、

「ウイルスが増殖」したことになりますね。

 

RNAウイルスゲノムも、

一部はそれ自体がmRNAのようにタンパク質を作る設計図になれます。

残りは…RNAをもとにDNAを作ります。

これが「逆転写」。

「逆転写」という言葉は、セントラルドグマには含まれていません。

セントラルドグマにあるのは、

DNAをもとにRNAを作る「転写」。

「逆転写」は、RNAをもとにDNAを作ること。

RNAウイルスゲノムをもとに、

複製してもらえるDNAを作るのが逆転写酵素です。

逆転写酵素を使うのはレトロウイルスと呼ばれる一群。

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)は、レトロウイルスの代表例です。

レトロウイルスを改造したものは、

特定のタンパク質欠損症の遺伝子治療に使われますよ(ADA欠損症)。

このように

「細胞に入り込んでから、増やしてもらって、

ウイルスが出てくるまで」にはそれなりに時間がかかります。

だからウイルスに感染しても、

一定期間は「検査してもウイルスいないよー」という結果が出てきます。

この「いないよー」にあたるのが暗黒期。

この期間に検査をすると無駄になるだけでなく、

「かかっていないんだ!」と誤解されてしまうことになります。

保健所等で受けられるHIV検査が

「行為のあった日から1か月以降に検査を」と書いてあるのはこのためです。