3 気体と三相(5):肺と酸素ボンベの基礎
前回おはなしした酸素解離曲線。
酸素がどれくらいぎゅうぎゅうのときに赤血球とゆるーく手をつなぎ、
どれくらいすかすかになると手を放すか…の曲線でした。
この曲線、1つではありません。
赤血球の手のつなぎ方、手の放し方はヒトの状態によって変わります。
今回は、胎児(お腹の中にいる赤ちゃん)の例をおはなししますね。
赤ちゃんは、直接空気を吸うことができません。
だからお母さんの血液が運んでくれた酸素を
「自分の体の中」にいれる必要がありますね。
つまりお母さんの赤血球が酸素から手を離したところで、
赤ちゃんの赤血球が酸素と手をつなぐ必要があるのです。
お母さんと同じ赤血球を使って、同じ酸素解離曲線ではダメですね。
お母さん側赤血球が酸素から手を離しても、
赤ちゃん側赤血球が受けとる(手をつなげる)割合が低すぎます。
これでは赤ちゃんは酸素不足になってしまいます。
だから、赤ちゃんの赤血球は大人とちょっと違ったものを使っています。
具体的には赤血球の中にある酸素と手をつなぐ部分「ヘモグロビン」が、
胎児と成人では異なります。
胎児のヘモグロビンは成人と比べて
「低い酸素分圧でも手をつなげる、酸素と手を離すのはもっと低い分圧」です。
ちょっと違うヘモグロビンのおかげで、
赤ちゃんの赤血球はお母さんの赤血球が手放した酸素と手をつなげます。
そして赤ちゃんの全身の細胞へと酸素を届けに行けるのです。
こんな赤ちゃんの酸素解離曲線を見てみると、
お母さんの酸素解離曲線より左側にあります。
酸素解離曲線は縦軸に酸素飽和度、横軸に酸素分圧を取って書きます。
あの曲線が左側…つまり、全体的に酸素分圧の低いほうに動いた状態ですね。
こうすることで、
赤ちゃんはお母さんのおなかの中にいながら全身に酸素を届けているのです。
酸素のおはなし、一段落。
空気の圧力の話がありましたので、
古典的水銀柱血圧計のおはなしもできますね。
大気圧(空気の圧力)は、水面では1気圧です。
…本当は水面ですが、「地面」とイメージしても一応大丈夫。
この1気圧は76㎝水銀柱(760mmHg)とも書きます。
この単位「mmHg」が出てくるのは、おもに血液の圧力(血圧)です。
これからいろいろな分野で血圧の基準値を勉強するはずです。
一応、高血圧学会では
129mmHg/84mmHgを「正常血圧」の上限としていますね。
これが何を意味しているかを、ちょっと説明。
心臓は、ポンプのように血液を全身にめぐらせています。
「ポンプがギュッと縮んで圧力をかけ、
全身に血液を送り出したときに血管にかかる圧力(収縮期血圧)は
129mmHgまでにしましょうね!
ポンプが緩んで血管にかかる力が一番低いときの血圧(拡張期血圧)は
84mmHgより低くしましょうね!
それなら、正常血圧ですよ」…と言っているのです。
血管にかかる圧力は、
脈をとれるところに指をあててみると分かりますね。
健康な人では、血管の内側から
80~120mmHgくらいの力で押されているはずですよ!
次回は、酸素ボンベのおはなしに入りましょう!