5 ケース5:たかが検査、されど検査(1)
いよいよ後半パート突入。
法律医療のおはなしも、残り2つです。
今回は「検査」に関係するおはなしですよ。
(事件紹介ここから)
Aは3歳児。化膿性髄膜炎にかかり、B病院に入院していました。
Aの血管はとてももろく、治療用の点滴を入れるのも一苦労でした。
入院後、Aは順調に回復していました。
入院10日後、担当医師Cには午後に学会の予定がありました。
出発前にAの状態を確認していこうと考えたCは、
昼食15分後のAにルンバール検査をしました。
普段おとなしいAはこのとき激しく暴れ、
看護師Dが馬乗りになっておさえるほどでした。
しかもCは1回で穿刺成功できず、
何回もやり直したために30分近くもかかりました。
ルンバール検査から得られたAの髄液に濁りはなく、
感染から順調に回復していることが分かりました。
しかし、ルンバール検査から15分後、
Aは急に吐き、けいれん発作を起こしました。
その後の必死の対応むなしく、
Aには右半身けいれん麻痺、知能・運動障害が残ってしまいました。
(事件紹介ここまで)
せっかく病気はよくなってきたのに、ある日突然悲しい事態に。
こんな事故、患者としても医療職としても遭いたくありませんね。
このケース5も、民事のおはなし。
賠償金の対象が結構広いことは、ケース4でおはなししてあります。
さっそく、医師Cがアウトか確認していきましょう。
アウトの条件、またまた確認。
「何かやばそうだと気が付かなくちゃいけなくて、
そのやばい状況にならないように何とかしなくちゃいけなかったのに、
それなのにやばい状態を生じさせてしまったら、アウト」でした。
やばそうと気が付くか…について補足知識。
ルンバール検査(腰椎穿刺)は、脊髄等の隙間を満たす髄液を採取し、
必要に応じて髄液に薬剤を注入する医療行為です。
上の1文から、ルンバール検査をすると髄液の圧力が変わることは分かりますね。
髄液の圧力が変わると、髄液と接触している部分の圧力も変わります。
仮に接触部分が血管であるとき、
血管の状態によっては出血してしまうかもしれません。
しかも、Aの血管はもろかったですね。
髄液は脊髄だけでなく、脳も取り巻いていますから…
うん、一般人なら何かやばそうと気付けます。
最高裁判所は、ケース5のもとになった事件に対してこう言っています。
正しくは高等裁判所の言葉なのですが、
最高裁判所はそこを否定しなかったので、同じことだと思ってください。
「嫌がって暴れているAに対して、
看護師に体を固定させてルンバールをしたの?
これって、いくらなんでもどこかで出血するんじゃないの?
医師だもん、それぐらい予見できるし、予見できなきゃだめだよね?」
ちゃんとルンバール検査の禁忌(やっちゃいけない対象)にも書いてあります。
「頭蓋骨損傷の人」、「橋(延髄と中脳の間、小脳の横)に腫瘍がある人」、
「髄液圧上昇者」です。
つまり、一般人なら何かやばそうと気付けた以上、
「気付かなかった…」は通用しません。
「何とかしなきゃいけなかったか」については、
次回「何とか出来たか」から考えていきましょう。