5 ケース5:たかが検査、されど検査(2)

医師Cは「何とか出来た」のか…について考えてみましょう。

 

まず、ルンバール(腰椎穿刺)をしない選択肢があったか

確かにお薬は静脈から入れることはできそうですが、

薬が効いているか…効果確認のために髄液採取が必要そうです。

だから「全くルンバールをしない」選択肢はなさそうです。

 

ではルンバールをする前提で、なんとかできたか。

避けなければいけないヤバい状態は「Aが(脳付近で)出血する」でしたね。

脳付近の出血を防ぐには、

①髄液圧の急変と②血圧上昇を防ぐ必要がありそうです。

 

①髄液圧については、注入薬液量は決まっているはず。

ならば「ゆっくり注入」すれば、急変を防ぐことはできます。

髄液採取も「ゆっくり」行えば、急変は防げますね。

 

②血圧上昇を防ぐには「どんなときに血圧が上がるか」考えてみましょう。

寒いとき、運動した後、食事の後、交感神経系優位状態…ですね。

Aについて確認してみると…

寒かったかどうかの情報はありませんが、

「昼食15分後(食後)」「嫌がって暴れた(運動)」には当たりそうですね。

そして交感神経優位とは、簡単に言うと興奮している状態

泣いて暴れたAは、明らかに興奮していましたね。

このように、Aは明らかに血圧が高い状態でした。

それなのに、医師CはAにルンバールをしてしまったのです。

…こんな悪条件だったら、皆さんならルンバールを回避しますよね?

それこそが「ヤバい結果が起こらないようにできたこと」です。

 

…もちろん、これに対してはいろいろ言いたいことがある人がいるはずです。

そこは「どうすればアウトにならずに済むか」で考えましょうね。

 

ちなみに、最高裁判所が判断するまでにこの事件は紆余曲折がありました。

最初、地方裁判所は「セーフ!」といいました。

Aの家族は納得できず、高等裁判所に判断を頼みました。

日本の裁判制度では、地方裁判所の判断に不満がある人は

高等裁判所に判断を依頼できます。

高等裁判所の判断に不満がある人は、

最高裁判所に判断をお願いできる「三審制」ですが…。

最高裁判所が全ての事件を判断してくれるわけではありませんよ。

 

さて、高等裁判所ですが。

「アウト」とは言いませんでした。

「Aの障害を引き起こしたのが、病気再発によるものか、

ルンバールによるものかわからないよ。

ルンバールと、Aが障害を負って生じた損害の間に因果関係があると言い切れないから、

医師Cがアウトとは言えないよ。」

これ、高等裁判所の苦悩が出ています。

 

裁判所は、結論に確信が持てないときに

コイントスやあみだくじで結論を決めることはできません。

そんな決め方では、裁判所の判断を信用できません。

そもそも、裁判所に頼む必要性がなくなってしまいます。

結論に確信は持てない、でも何とかして争いは早く終了させたい。

そんなとき、裁判所はやむなく1つのルールを決めました。

本当にどちらの言うことが正しいかわからないときには、

「立証できなかったこと(ここでは因果関係)は、存在しない」と判断します。

これが法律用語の「立証責任」です。

…いろいろ議論はありますが、これ以上は立ち入りませんよ。

とにかく、高等裁判所はAの障害の結果が

「ルンバールという医療行為」のせいか「化膿性髄膜炎」のせいかわからないよ!

…と判断しました。

化膿性髄膜炎は中枢付近の細菌感染による炎症。

炎症を起こす場所によっては、意識障害やけいれんが起きうる病気です。

仮に治りかけていた化膿性髄膜炎が再発していたなら、

Aはルンバールをせずともけいれん発作を起こした可能性があります。

それならば、医師CのせいでAに障害が残ったとは言えませんね。

…当然、Aの家族は納得できませんでした。

ダメでもともと、最高裁判所の判断をお願いしました。

最高裁判所は、この事件に対しては判断をしてくれました。

医師Cはアウトになりましたが…明確なアウト宣言ではありませんでした。

そこは、次回確認しましょう。