14 各論8:ウイルス(2)RNAウイルス(8)
H パラミクソウイルス科
パラミクソウイルス科は、
エンベロープ付きの1本鎖RNAウイルス。
ここのグループの代表は、麻疹ウイルスと
ムンプス(流行性耳下腺炎:おたふくかぜ)ウイルスですね。
(A)麻疹ウイルス
麻疹(はしか)の原因になるのが、麻疹ウイルス。
咳やくしゃみから経気道感染(飛沫核感染)します。
「初感染で100%発症する」ウイルスです。
痰がらみの咳といった上気道症状から始まり、
結膜炎、発疹、高熱と続きます。
特に口腔粘膜に出る(奥歯~扁桃付近)
粟粒のような白い斑点(コプリック斑)は
「麻疹だよ!」のサインです。
従来は、乳幼児の病気でした。
でも乳幼児期にかからずに成人後に発症すると、
重症化しやすい傾向にあります。
麻疹にかかると、肺炎や中耳炎を合併しやすくなります。
それだけでも大変なのに、脳炎の合併可能性すらあります。
脳炎は麻疹が治まって1~2週間してから出てくることが多く、
途上国のみならず先進国でも命を奪われる可能性があります。
覚えておいてほしいのは亜急性硬化性脳炎(SSPE)。
麻疹のあと、数年レベルの無症状期を経て
学力低下・注意力散漫・物忘れ等で発症します。
ゆっくりと、しかし確実に症状は進み…
数年後には死が待っている脳炎です。
短期的だけでなく、
長期的にも怖い麻疹ウイルスに対する有効治療法はありません。
だからこそ、予防なのです。
風疹のところでもおはなししたように、
風疹と麻疹の混合弱毒生ワクチン(MRワクチン)が定期接種対象。
感染症法5類の「直ちに」届出る感染症で、
熱が下がって3日経過するまでは学校等の出席停止になります。
麻疹の抗体がないのに、麻疹のウイルスと接触
(患者さんと会話した、同じ車内にいた等)してしまっても、
接触後3日以内のワクチン接種
(又は6日以内に抗体投与)で発症や重症化を防げます。
とはいえ、「麻疹のウイルスと接触したかどうか」なんて
普段分かるものではありません。
それならば麻疹の抗体検査をして、
予防接種をした方が安全・確実ですね。
(B)ムンプスウイルス
ムンプス
(流行性耳下腺炎:「おたふくかぜ」)の原因がムンプスウイルス。
飛沫を介して気道粘膜に侵入し、増殖します。
増えたウイルスは血液中に流れ出て、
腺組織(だ液腺・膵臓・精巣・卵巣)の細胞と
神経細胞に感染することが多いですね。
特にだ液腺(中でも耳下腺が多い)に炎症が出るので、
流行性耳下腺炎です。
主に小児がかかりますが、
思春期以降でかかることもあります。
無菌性髄膜炎や膵炎、難聴といった
合併症が出ることもあるので軽視はできません。
任意接種になってしまいますが、
予防接種があるのでうまく活用しましょう。
感染症法5類(小児科定点)の、
学校保健安全法2種(特定条件下で出席停止)の感染症です。
出席停止になる「特定条件」は、
「耳下腺・顎下腺又は舌下腺の腫脹が始まった後5日を経過し、かつ、
全身状態が良好となるまで」です。
つまり「だ液腺の腫れから5日過ぎなきゃだめだよ!
体調も良くなってからね!」です。
体調が良くなっても、
腫れスタートから3日しかたってないときは、まだアウト。
腫れ始めてから6日たっても、
具合が悪そうなら、やっぱり学校に行くことはできません。
少しだけおまけ。
パラミクソウイルス科そのものではありませんが、
すぐそば(親戚?)にあるニューモウイルス科に
RSウイルスがいます。
RSウイルスは主に冬の、
新生児から幼児期に多い肺炎・気管支炎の原因です。
飛沫感染ですが治療薬やワクチンはなく、
輸液・呼吸管理等の対象療法にならざるを得ません。
基礎疾患があると重症化しやすく、
高齢者の感染では生命に危険を及ぼすこともあります。
「RSウイルス感染症」は、感染症法5類(小児科定点報告)です。