6 体温のおはなし(3)上部消化器系(+肝胆膵)(15)
このように胃がん等で
胃を切除したときの後遺症が「ダンピング症候群」です。
胃が小さくなる(もしくは胃がなくなる)と、
胃の「とっておく役目(貯留能)」を果たせません。
そのせいで消化が終わっていない食べ物が、
急にたくさん小腸へと流れ込んでいくことになります。
そのせいで食後5~30分で
悪心・嘔吐・腹痛や下痢、腸運動亢進が起こります。
そして循環血液量が減り、
血圧が低下するのが「早期ダンピング症候群」。
そこを過ぎても、食後2~3時間で
急に上がった血糖値に反応して出されたインシュリンのせいで、
動悸・発汗・手の震えが起きてきます。
低血糖性のこの症状が「後期ダンピング症候群」ですね。
少しでも症状を軽くするために、
食事に注意しましょう。
糖質は少なめに、脂質とタンパク質は多めに。
できるだけ固形物を選ぶのが
後期ダンピング症候群を軽くするポイントです。
急性胃炎等で起こる嘔吐は、
体の中のミネラル(イオン)の量を大きく変動させます。
イオンは水に溶けてプラスやマイナスの電気を帯びたもののこと。
例えば食塩(NaCl)は水の中ではNa+とCl-に分かれます。
プラスの電気を帯びたナトリウムイオンと、
マイナスの電気を帯びた
塩化物イオン(「クロール」)ですね。
水も一部は
水素イオン(H+)と水酸化イオン(OH-)に分かれますよ。
水素イオン濃度が、体内のpHに反映されることになります。
体内pHについてのおはなしは
下部消化器系(腎臓)のところでする予定です。
でも今のうちに「嘔吐はアルカローシス」と、
「下痢はアシドーシス」を理解してしまいましょう。
嘔吐は胃酸を体の外に出してしまうこと。
体の中から急に酸が外に出ていくと、
体全体はアルカリ性に傾きます。
胃酸の主成分は理科の実験でも出てくる
強い酸性の塩酸(HCl)。
これが体の外に出ていくので、
血液はじめ体全体が
アルカリ性に傾くアルカローシスになるのです。
同時に水素イオン(H+)と
塩化物イオン(Cl-)が体の中から減ることも
イメージできるようにしておきましょうね。
下痢は、腸液が体の外に出ていってしまうこと。
腸液は細胞外液に近い成分ですが、
重炭酸イオン(HCO₃-)が多く含まれるため
アルカリ性です。
アルカリ性の腸液が体の外に出てしまうと、
体全体は酸性に傾いてアシドーシスです。
下痢のときに主に体の中から減るイオンは
ナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)、
そして重炭酸イオン(HCO₃-)。
ナトリウムイオンと塩化物イオンは、
細胞外液に多いミネラルですね。
下痢でも嘔吐でも
塩化物イオンが体外に出ていってしまうことは、
頭の片隅に置いておいてくださいね。