2 性感染症(STD)のおはなし(8)
HIVの「針刺し事故」による血液感染のおはなしです。
まず確認。
ちゃんと生化学のHIV感染機序は見てきましたね?
免疫がおかしくなってしまうところの、意味も理解できましたね?
その上で。
実は、針刺し事故のすべてでHIVが感染するわけではありません。
HIVの感染確率は、結構低いのです。
でも、安心してはいけません。
針刺し事故で本当に感染が怖いのは、
肝炎ウイルスのB型(HBV)とC型(HCV)です。
肝炎ウイルスでどんなことが起こるか…については
病態学の教科書等にお任せしますよ。
数年後(ちょっとまだ具体的時期をお知らせできませんが)
病態学のおはなしをする機会があったら、
その場所へのリンクも貼っておくことにします。
とかく、肝炎ウイルスのB型とC型は危険です。
肝炎から肝臓の機能不全である「肝硬変」を起こすと、
体内の最大工場が働かなくなってしまいます。
それがどんなに「ヤバい!」ことなのかは、
生化学や解剖生理学の講義からも分かってくれるはず。
だから「HIVは針刺し事故でも感染しにくい?安心」ではありません。
「針刺し事故?!肝炎ウイルス感染した?!」が心配なのです。
針刺し事故が分かったら、
一刻も早く先生や指導者、実務の管理担当者に報告!
すぐ対処できるなら、肝炎の発症を抑えられる薬を使えます。
でもその発症抑制効果は100%ではありません。
そんなことにならないように、
「針刺し事故予防!」が大事なのです。
…この話は看護分野のおそらくどこでも出てきます。
院内感染対策でも当然出てくる内容です。
予防のためには、「針」の取り扱いが大事ですね。
ついついキャップに戻す「リキャップ」をしたくなりますが、
これこそが針刺し事故の落とし穴。
リキャップは、してはいけません。
キャップをせずに、専用の廃棄箱(プラスチックケース)に入れましょう。
こうすれば、針が自分の方向に向かずに終わります。
あとは、もしもに備えた対策ですね。
手袋をして、針先から体内に入る血液量を少しでも減らす。
針を扱う作業をするときには、
必ず時間的にも心理的にも余裕を持って行う。
こうやって文字に書き出すと、
「そんなの当たり前でしょ!」といいたいことばかりです。
でも、実際にはこれを実行できないことが多いのです。
せめて今ここを見ている皆さんだけは、
「針刺し事故」をしないでくださいね。
次回は、ちょっとだけ脱線。
TORCHではありませんが、
T細胞に感染するHTLV-1のおはなしです。