9 ヒトを取り巻く環境(3):生態系(7)
前回は「本来どこかで役立つはずのものも、
多すぎたら悪影響」のおはなし。
今回は「生物の役に立たないだけじゃなくて、
最初から悪影響!」のおはなしです。
農薬でDDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)と
いう名前を耳にしたことがあるかもしれません。
雑草が生えてくることを防ぐため。
害虫に食い荒らされることを防ぐため。
農地の多くで、農薬を使うことが一般的です。
そのうちの1つだったDDTも、農地に使われ、
農業用水として川に流れ込み、海に出ました。
水と一緒に水中の植物プランクトンに取り込まれましたが…
プランクトンはDDTを分解することができません。
いらないものなら捨てればいいと思いきや、
今度は排出しにくい成分でもあったのです。
そうこうしているうちに
植物プランクトンが動物プランクトンに食べられます。
「1個食べたらおしまい」という関係にはありませんから、
動物プランクトンの中にどんどんDDTがたまっていきます。
その動物プランクトンは小魚に食べられ…
その先はもうイメージできますね。
栄養段階が上がるにつれ、
体の中にたまるDDTが増えていきます(高濃度化)。
このように特定の物質が食物連鎖を通して上位の生物に取り込まれ、
高い濃度で蓄積されるのが「生物濃縮」です。
単に「蓄積」されるだけでは終わりません。
物質によっては成長や発育に影響が出て、
その種が大きく数を減らすこともありうるのです。
DDTの例では最上位栄養段階がワシなどの鳥類で、
激減した種もあります。
これがキーストーン種だったとすると、
生態系が大きく左右されることになりますね。
だから現在では農薬の使用や生活・工業排水には
様々な規制がなされています。
DDTは発がん性の可能性も見つかったため、
世界レべルでの禁止・制限対象になりました。
ただし、他の殺虫剤を作れない途上国の一部では、
マラリア対策としてまだ使い続けているところもありますよ。
…最上位栄養段階は、鳥類だけではありませんね。
ヒトも立派な最上位栄養段階です。
生物濃縮の影響をしっかり受けてしまった例が、
四大公害病の水俣病やイタイイタイ病。
工場から出る排水に対して
規制がされる大きなきっかけになった大事件でした。