4 ケース4:輪郭のない世界(1)
みなさんは目の悪い状態を想像できますか?
目の良い人にとっては、すごくイメージしにくいものです。
実は、ものの輪郭が消えて、色だけがぼうっと見えます。
今回の事例も、
自分(もしくは我が子)がその立場だったら…と考えてみてくださいね。
(事件紹介ここから)
AはB病院で(在胎31週だったが)体重1500gの未熟児として生まれました。
B病院新生児センター勤務の小児科医Cが、Aの担当になりました。
CはAを保育器の中に入れ、酸素投与をしました。
Aが生まれてから1か月後、B病院の眼科医Dが健診をしました。
このときのAに異常は認められませんでした。
そのため、Aには1年後の退院時まで眼科健診が予定に組まれませんでした。
眼科医Dは成人に対しては十分な知識・経験がありましたが、
未熟児に関しては特段の研修を受けていませんでした。
Aは退院時に他の眼科医の診察を受けたところ、
両目とも重い未熟児網膜症で、視力は0.06しかありませんでした。
現在でも、視力は回復していません。
B病院ではAの生まれる1年前から、
小児科と眼科が未熟児網膜症に対して連携をしていました。
そして眼底検査で疑いがあるときには、
光凝固法が可能な他の病院に転院させる決まりになっていました。
光凝固法については、Aの生まれる数年前から研究が始まっていました。
ただ、行政(厚生省)が研究結果発表と統一的診断基準の報告書を提出したのは
Aの生まれた半年後で、
それまでは治療法として確立されていない状態でした。
(事件紹介ここまで)
この事件は、民事のおはなしです。
「賠償金払え!」ですね。
刑事のおはなしを考えた後なので、
「民事なら、まあいいか」なんて思っている人はいませんか?
懐の痛み方は、半端ではありませんよ。
「賠償」と簡単に書きましたが、そこには何が含まれるでしょうか。
まず治療費。
よくある保険の文句によると「入院1日1万円」です。
ここに個室代、高額治療費がさらに追加されていきます。
次に慰謝料。
精神的損害とも呼ばれますね。
体に受けた傷だけでなく、心に受けた傷に対してもお金で賠償することになります。
さらには、
「将来得ることのできた収入」も賠償に含まれてきます。
笑えない笑い話ですが『医者の卵は轢(ひ)くな』という言葉があります。
将来得るだろう収入が高額になるから、
賠償額もすごいことになるぞ…という意味ですね。
民事なら、まあいいか…ではすみませんね。
次回はAの親の立場から考えていきますよ。