6 ケース6:最後の親孝行?(4)
アウトにならずにできることは何か。
まずは、医師の立場から考えてみましょう。
アウトにならない4条件を満たしているなら、
患者さんを安楽死させてもセーフのはずですが…
そんなこと、めったに起こらないことは今までのおはなしから分かりますね。
では、4条件を満たさないときにはどうか。
「A 尊厳死の意思表示があるとき」と
「B 尊厳死の意思表示がないとき」に分けてみましょう。
尊厳死とは「人間が人間としての尊厳を保って死に臨むこと」です。
…管で生かされているのは、ごめんだよ…ですね。
「A 尊厳死の意思表示がある」とき、医師ができることは疼痛ケアです。
おそらく、患者さんの意思表示の中にも「痛みは取ってくれ」等の指示はあるはず。
これは「できること」としてわざわざ書かなくても、
日常的に行っていることですよね。
日常的に行っていても注意する必要があるのは「生命維持」です。
実は、患者さんはその医療行為を望んでいないかもしれません。
…ここについては、難しい問題山積みです。
「a 尊厳死を望んでいる人を安楽死させることは可能か」
「b 生命維持拒否の事前文書があるときに、
生命維持装置を付けることは即、アウトなのか」この2つだけにしぼってみましょう。
「a 尊厳死希望者の安楽死」についてですが、
はっきりいって、
用語・定義のレベルからあいまいに扱われているのが安楽死です。
それなら安楽死させても大丈夫…とか思ったあなた、
ここのおはなし(A)の大前提は何でしたか?
「裁判所の4条件を満たしていない」でしたよね。
残りの3条件の、どれか1つでも欠けていたら、
あなたがアウトになってしまいますよ!
「b 拒否事前文書があるときに生命維持装置を付けたらアウトか」…
これが、現実の現場で問題になってきそうです。
はっきり言って、正解はありません。
「こうすれば、絶対安全」とも言えません。
ただ、ケース1の裁判所判断からも分かるように
自己決定権は偉大です。
自己決定権を書面で準備してあるものが見つかったなら、
家族と内容を検討・確認し、
その上で治療方針決定を行うことを強くお勧めします。
「B 尊厳死の意思表示がない」とき、
医師ができるのは疼痛ケアと生命維持。
いつも通りの医療提供ですね。
このときには、医師は患者の生命を終わらせてあげることはできません。
当然、治療中止もできません。
その生命の灯が消えるまで、
可能な医療を提供し続けるしかありません。
最後の救済と考えるか、無力さの証とみるのか。
人間を病気から救う医師でも、その生命の灯が消えるときできることは、
ほんの少しなのです。