11 各論5:細菌(2)桿菌のグラム陽性(1)
球菌のおはなしから、桿菌のおはなしへ。
桿菌は、紹介しなくてはいけない菌が多いところです。
それだけ病原性を持つものが多い…ということですね。
でもヒトにとって有益な「善玉菌」のいるグループでもありますよ。
まずはグラム陽性菌から。
とはいえ、ここも好気性菌から嫌気性菌まで
たくさんの菌が含まれています。
基本的には好気性菌から嫌気性菌へとおはなしを進めていきます。
細菌の大きなブロック分けで言うと、
バシラス属やリステリア属といった好気性菌からスタート。
好気性から嫌気性まで広く含むアクチノバクテリア網から、
通気性菌から嫌気性菌の乳酸桿菌(ラクトバシリス)属へ。
そして嫌気性菌のクロストリジウム属へと進めていきますよ。
A バシラス属とリステリア属:炭疽菌・セレウス菌とリステリア
桿菌のグラム陽性菌、酸素好きはバシラス属とリステリア属。
バシラスは主に土中にいる、芽胞を作るグループです。
納豆菌や抗生物質を作ってくれる菌のようにヒトの役に立つものもいますよ。
ヒトに悪さをする(病原性のある)のは、炭疽菌とセレウス菌です。
炭疽菌は、基本家畜病の原因。
ヒトに対しての病原性は二次的です。
でも芽胞を作る以上、対処が必要になったら大変なことこの上ありません。
121℃で5~10分オートクレーブするか、
オーブンで140℃、3時間加熱する必要があります。
しかも莢膜で貪食しても耐えられるように(貪食抵抗)なっています。
炭疽菌がヒトに悪さをするとき、
手足等の傷から入り込んで膿疱を作り敗血症を引き起こすのが皮膚炭疽。
食べ物と一緒に取り込まれてしまうのが腸炭疽。
獣毛を扱う人などが(芽胞を吸い込んで)肺炭疽を起こすと、
急に症状が進み、死に至ります。
外国の政府主要施設等を狙った不審小荷物のテロに、
炭疽菌が使われるのはこのためだと思われます。
セレウス菌は自然界にいる食中毒の原因菌。
嘔吐毒と下痢毒どちらも作りますが、
日本では嘔吐型が多いようです。
リステリア属は低温と食塩に耐性があることが特徴。
5℃でも増殖でき、塩分で活動制限を受けません。
その中でヒトに対して病原性があるのは、リステリア・モノサイトゲネス。
主に家畜の腸管にいる、人獣共通感染症です。
家畜の糞便から水を経由して野菜から移ることもありますし、
肉や乳(チーズからも)製品から移ることもありますね。
ヒトでは食中毒を引き起こしますが…
意外なほど胃腸炎症状は出ません。
腸でヒト体内に侵入した後、肝臓で増えます。
しかもマクロファージや好中球といった食細胞の中で増える
「細胞内寄生細菌」です。
だからリステリア・モノサイトゲネスが悪さをすると、
肝障害や菌血症、髄膜炎が出てきます。
何より怖いのが妊婦感染による経胎盤感染。
流産や死産で胎児の命を奪うことも、
敗血症や髄膜炎を引き起こす新生児リステリア症になることもあります。
母子共にひっくるめて「周産期リステリア症」と呼ぶこともありますね。
予防には、十分に加熱されたものを食べること。
グルメなあなたも、妊娠中は食の安全を心がけてくださいね。