14 各論8:ウイルス(2)RNAウイルス(4)
E レトロウイルス科
お次はレトロウイルス科。
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)と、
ヒトTリンパ球向性ウイルス1(HTLV-1)のいるグループです。
エンベロープ付きの正二十面体構造ですね。
「レトロ」の名は「古臭い、昔っぽい」の意味ではありません。
レトロウイルスはウイルス中のRNAと逆転写酵素から、
ウイルスDNAを作ります
(逆転写:DNAからRNAを作る「転写」の逆)。
そのウイルスDNAを感染した細胞のDNAに組み込んで、
ウイルスを増殖させるのです。
逆方向(retro:レトロ)の転写をするので、
「レトロウイルス」ですよ。
輸血で感染することがある(血液感染する)ので、
献血血液スクリーニングの対象。
もちろん、医療従事者は針刺し事故に注意ですね。
(A)ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、
最終的に後天性免疫不全症候群(AIDS)を引き起こすウイルス。
ヒト免疫不全ウイルスに感染した後は、
感染症法5類感染症として
届出対象(性感染症定点報告)になるだけでなく、
身体障害者(免疫不全者に対する医療補助:身体障害者福祉法)の
認定対象にもなります。
主な感染ルートは「血液」、「母子」、「性的接触」。
医療従事者は針刺し事故にしっかり注意して、
スタンダードプリコーション。
もう何回もおはなししてきましたよね。
母子感染は(性的接触で感染することからも分かるように)
産道感染が主なものですが、胎盤や母乳からも感染します。
日本国内の感染例の大部分(9割近く)は、性的接触による感染。
性行為で感染するということは…
「不特定多数と関係を持たない」、
「コンドームを使う」のお約束が当てはまります。
ヒト免疫不全ウイルスに感染しても、
しばらくはウイルス(の核酸:DNA)も
ウイルスに対する抗体も出てきません。
ウイルスが細胞の中に入り込んで、RNAからDNAを逆転写して、
ウイルスDNAを細胞のDNAに組み込んで…と
各種時間がかかるからです。
感染から抗体が陽性になるまで(約1~2か月)を
「ウィンドウ期」と言います。
ウイルスが血液中に出てきている(ウイルス血症)のに、
抗体が陽性になっていない間は
「感染性ウィンドウ期(感染約2週間後から1~2か月)」ですね。
感染性ウィンドウ期は、他の人に移すことはできるのに、
血液検査では「いないよー」と結果が出てくる危険な期間。
血液検査の対象が抗体からウイルス核酸に変わり、
感染性ウィンドウ期は短縮されましたが…ゼロにすることできません。
これ、ヒト免疫不全ウイルスが広まることになった原因の1つです。
次回は残った「HIVが広がった原因」のおはなしです。