6 各論1:脈・血圧(心臓):不整脈・心不全(2)強心薬(1)
心不全のおはなしに入りますよ。
心不全は心筋の収縮力が下がって、
体の細胞に必要な血液が送り出せていない状態です。
だから心筋の収縮力(命令が来たときに、ちゃんと縮める)を
回復・復活・増強させる薬が、心不全の薬(強心薬)です。
でも、最初に注意しておかなくちゃいけないこと。
心筋の収縮力が低下した原因を解消せずに収縮力だけを増やすと、
心筋が疲れ果ててしまい、
もっと心臓が働けなくなる可能性があります(重度の心不全)。
だからこれらの薬は単品ではなく、他の薬と一緒に使うことが多くなります。
他の薬と一緒ということは…相互作用に要注意ですからね。
心筋収縮力を増やす薬には、ジギタリス製剤、カテコラミン製剤があります。
ジギタリス製剤は
細胞膜にある2つのポンプの働きをコントロールして
細胞内のカルシウムイオンを増やすお薬。
カテコラミン製剤は
同じく細胞膜にあるノルアドレナリン受容体にはまり、
あたかもノルアドレナリンがβ1受容体にはまったような働きをするお薬です。
少し補足していきますね。
ポンプというのは、ATPを利用してイオンを交換するところ。
ジギタリス製剤が邪魔するのは、ナトリウム-カリウムポンプ(Na-Kポンプ)です。
ナトリウム-カリウムポンプは、
細胞内のナトリウムイオンをかき出して、
細胞外からカリウムイオンをかき入れるポンプです。
ここが邪魔されると、細胞の中にナトリウムイオンがたまっていきます。
そうすると、もう1つのナトリウム-カルシウムポンプ(Na-Caポンプ)は
「あまり働いちゃいけないな」と判断します。
普段は細胞内のカルシウムイオンをかき出して、
細胞の外からナトリウムイオンを取り入れるのですが、
細胞の中にナトリウムイオンが増えてきたせいですね。
その結果、細胞内にカルシウムイオンが増えます。
カルシウムイオンが多いとしっかり筋肉が収縮できるおはなしは、
狭心症の硝酸薬のところでしましたよ。
ジギタリス製剤の一例として、ジゴキシン(ジゴシン)の禁忌を確認。
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00051627
房室・洞房ブロックのある人には禁忌。
これは不整脈のところでもあったペースメーカー等の担当です。
心筋疾患のうち、狭窄等のある閉塞性疾患も禁忌。
狭くなっているところがあるのに、
心筋収縮力だけ高めたらもっとふさがってしまいます。
ジギタリス中毒を起こしたら、もちろん禁忌。
嘔吐、食欲不振、視界のぼやけ・知覚色変化、混乱等が
ジギタリス中毒の症状です。
ジギタリスは薬としての量と毒としての量がごく近い薬です。
何かあったら、すぐに中毒症状が出てきます。
代謝(M)や排泄(E)のことを思い出すと、
小児や腎臓障害の人では特に注意が必要です。
あと、併用禁止(「原則禁忌」)には
カルシウム製剤(注射剤)や手術時の筋弛緩剤がありますよ。