14 各論8:ウイルス(2)RNAウイルス(5)
前回、感染性ウィンドウ期があるから感染が広まったとおはなししました。
今回は感染を広げる他の要因も確認してみましょう。
同じく性感染症の梅毒
(スピロヘータの梅毒トレポネーマ)を思い出してみてください。
梅毒は感染行為から症状が出るまでに時間がかかり、
しかも初期症状(第1期)は痛みのない地味なものでしたね。
ヒト免疫不全ウイルスによる感染も同じ。
抗体ができて(HIV感染確認)、
数年から十数年にも及ぶ無症候期がやってきます。
この無症候期は体内の免疫システムが頑張っている証拠。
血液中にウイルスはいますので、感染力はありますよ。
頑張っている免疫の要、
マクロファージやT細胞(Tリンパ球)が破壊されてしまうと、
症状が出てきます。
それが最初の症状にして、いきなり免疫不全状態。
日和見感染を起こしてしまう
エイズ(後天性免疫不全症候群:AIDS)期です。
逆に、ここまで至らないと
ウイルスに感染しても「エイズ(患者)」ではありません。
ヒト免疫不全ウイルスに感染しても、
免疫不全状態にならなければ
「エイズ」ではないことを忘れないでください。
だからヒト免疫不全ウイルスに対しては、
「免疫不全状態にならない」ための治療をしていくことになります。
抗レトロウイルス療法ですね。
変異しやすいレトロウイルスなので、
複数の薬を一気に入れて叩く多剤併用療法がとられます。
結核の多剤療法同様、長期間の、確実な内服が必要になります。
妊婦がヒト免疫不全ウイルスに感染しているときも同じ。
経胎盤感染を防ぐために(多剤併用の)抗レトロウイルス療法。
経産道感染を防ぐために帝王切開。
あとは母乳による感染を防ぐために人工乳を使うことになるはずです。
念のため、感染者からの出生児には
予防的に抗レトロウイルス薬が使われます。
「医療従事者が針刺し事故!」というときにも、
予防的に抗レトロウイルス薬を使いますよ。
(B)ヒトTリンパ球向性ウイルス1(HTLV-1)
ヒトTリンパ球向性ウイルス1(HTLV-1)は、
ヒトT細胞白血病ウイルスとも呼ばれます。
日本では、以前沖縄~九州南部に多く分布していましたが、
現在は大都市圏での感染者が増える傾向にあります。
世界で見ると…日本以外では、中央アフリカ、
カリブ海やパブアニューギニア近隣でのみ見られるウイルスです。
感染は「生きている感染したT細胞(Tリンパ球)が体内に入る」
ことで起こります。
血液感染(輸血や性行為)と、授乳での感染が原因ですね。
感染しても、生涯無症状(単なるキャリアー)が大部分。
ごく一部でのみ、悪さをすることになります。
ヒトTリンパ球向性ウイルス1が原因になるのは、
成人T細胞性白血病(ATL)と、
HTLV-1関連脊髄症、HTLV-1ぶどう膜炎。
看護師国家試験で出るとしたら、成人T細胞性白血病です。
感染して40~60年たったころに、
キャリアーのごく一部(約5%)で、
Tリンパ球が腫瘍化(がん化)してしまいます。
リンパ節や肝臓・脾臓が腫れ、全身倦怠感と皮疹が出現。
ヒトTリンパ球向性ウイルス1には有効な治療法がないので、
他の白血病を同様に抗がん剤や骨髄移植が行われることになります。
神経障害を起こすHTLV-1関連脊髄症や、
目のかすみ・視力低下のでるHTLV-1ぶどう膜炎には、
ステロイドが使われます。
母乳経由での感染予防のために、
人工ミルクや冷凍母乳を使うことも覚えておいてくださいね。