2 総論:ヒトと微生物の関係(2)
ここまで派手な「ヒトのため!」といえずとも、
表面(皮膚や粘膜)にいる常在細菌もヒトの役に立っています。
「酸性に保つ」働きです。
生化学で「生体の防御機構:免疫」の勉強をしましたね。
白血球にはいろいろな種類があって、
抗体と一緒に体を異物(侵入者)から守っているおはなしです。
でも、そもそも「体の中に異物が入ってこない」ほうがいいはず。
体の中に異物を入れないために、
ヒトの体には「物理的防御」と「化学的防御」が備わっています。
「(基礎)生物」で勉強した人もいるはずです。
物理的防御には防壁としての皮膚や粘膜、
化学的防御にはリゾチーム等の酵素や胃酸等が含まれます。
化学的防御の代表でもある胃酸の中でも生き残る、
ヘリコバクターピロリ菌のようなものもいますが…
あくまでそれは特別なものですよ。
また、皮膚や粘膜で侵入を阻まれた異物(病原性細菌等)が
そこで増殖してはよろしくありません。
だから皮膚の表面は弱酸性になっています。
この「弱酸性」は、皮膚の常在細菌が出す酸と、
皮膚の脂(皮脂)の酸化で保たれます。
皮膚常在細菌には「生育環境ばっちり!」で、
異物にとっては「…増えられない…」、それが皮膚の表面です。
皮膚の物理的防御を支えてくれる常在細菌の役割、分かりましたね。
一方、粘膜は皮膚と比べて角質層がなく「壁」としては幾分劣ります。
その分、粘液や繊毛等を使って「追い出す」ことに重点が置かれています。
鼻呼吸で副鼻腔を使って十分に加温・加湿し、
気管支の繊毛をしっかり動かして痰として体外に出す
…解剖生理学で勉強しましたね。
痰は、空気ルート(喉頭、気管ルート)に入り込んでしまった異物を、
粘液でからめとって体の外へ追い出すためのものですよ。
粘膜にも、皮膚と同様に常在細菌がいます。
その一部は、皮膚の常在細菌と同じく
「異物にとって生育しにくい環境」を作り出します。
代表としては、膣のデーデルライン桿菌。
膣は異物が入り込みやすい場所なので、
多量の分泌液で異物を押し出しています。
でも空気の勢いも利用して異物を追い出すせきやくしゃみのような
力強い追い出しはできません。
どうしても押し出す力に限界があるため…膣内を酸性に保ち、
異物の増殖を抑えるのがデーデルライン桿菌の作る酸です。
口腔内にも常在細菌(口腔連鎖球菌など)がいて、異物の増殖を抑えています。
こちらは「増殖するスペースを失わせる」戦略です。
常在細菌が元気だと、
異物(他の菌)が入ってきても、増えるための空間も栄養物もありません。
似たような状態は皮膚上や腸管内でも起こっています。
明らかな善玉菌だけでなく、常在細菌が元気に繁殖していると、
ヒトに悪さをする異物が入って来ても増えにくくなります。
腸内の常在細菌叢のことを
「腸内菌叢(腸内フローラ)」と呼ぶこともありますね。
腸管粘膜にはたくさんの常在菌がいます。
「大腸菌」は名前の通り大腸にいる菌。
大腸の中にいる限り、大腸菌はヒトにとって悪さをする菌ではありません。
でも、大腸から出て他のところで見つかったら大問題です。
「井戸水から大腸菌が見つかった!」なんてことになると、
その井戸水を飲食用に使えなくなってしまいます。
「病原性」と付いていなくとも、下痢症のもとになりえますからね。
病態学や薬理学で勉強すると思いますが、
下痢や嘔吐は入ってきた異物を
一刻も早く体外に押し出すための生体の反応。
体外に押し出すための下痢や嘔吐を止めると、
かえって病気が長引く原因にもなりえます。
どんなに苦しくても下痢止めを飲めない下痢があること、
覚えておいてくださいね。