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13 各論7:ウイルス(1)DNAウイルス(8)

F ヘパドナウイルス科

そして続くはヘパドナウイルス科。

DNAウイルスの最後のブロックです。

ここの代表は何といってもB型肝炎ウイルス(HBV)。

5種類ある肝炎ウイルスのうち、唯一のDNAウイルスです。

2本鎖のDNA(部分によっては1本鎖)を持つ、エンベロープ付きの正二十面体。

一番外側に、HBs抗原と呼ばれるタンパク質があります。

このタンパク質の一部が、少しずつ血液中へと流れ出ていきます。

B型肝炎ウイルスのワクチンは、

HBs抗原を注射して抗体(HBs抗体)を作らせるもの。

だから、HBs抗体は

「B型肝炎ウイルスに免疫があるか」を調べるときに使われます。

HBs抗原がいたら「今、体の中にウイルスがいるよ!」という状態です。

 

注意してほしいのは、B型肝炎ウイルスの抗原部分は1つではないこと。

ウイルスの中(エンベロープの中)にあるHBe抗原もあることです。

HBe抗原は、ウイルス増殖が盛んなときに、

ウイルスに入り込まれた肝臓の細胞から放出されて血液に出てきます。

「HBe抗原があったら、現在元気に増殖中!」ですね。

これに対する抗体がHBe抗体。

HBe抗体は

「増殖中のウイルスがいるよ!頑張って抑え込んだよ!」のサインです。

ウイルス抗原を発見して、

抗体ができるまでに約2か月かかります(ウィンドウ期)。

あまりに急いで血液検査をすると、

「(ウイルスがいるはずなのに)いない…」という

結果になりますので、注意ですよ!

 

B型肝炎ウイルスの感染経路は血液感染。

母子感染(垂直感染)もありますが、多いのは「針」がらみ。

入れ墨やピアスの穴開け

(使い捨てせずに針を複数の人で使用した場合)、

麻薬等のまわし打ち、輸血等の医療行為などなど。

医療従事者が最大注意を要するのは、「針刺し事故」ですね。

スタンダードプリコーションの重要性と、

迅速な初期対応が必要なことについては

総論のところでおはなししましたよ。

 

B型肝炎ウイルスがヒト体内に入り込んだのが出生児や幼少期だと、

免疫機能が十分に働かずウイルスを完全に排除できません。

約90%が持続感染(無症候性キャリアー)になってしまいます。

大部分はそれで終わりますが…

10%ほどはある日突然慢性肝炎の原因になり、

肝機能低下や線維化が進んでしまいます。

さらに進んで肝硬変

(下肢けいれんや手掌紅斑、クモ状血管腫、腹部動脈怒張等)や、

肝がんになってしまうこともありますね。

初感染が成人期だと、80%近くは不顕性感染(症状なし)。

残った約20%では急性肝炎が起こります。

発熱、頭痛、咽頭痛から始まって「風邪かな…」と思っていると、

全身倦怠感、黄疸、褐色尿が出てきますよ。

多くは、2か月くらいで治るのですが…

ごく一部(2%くらい)は

致命率60%ともいわれる劇症肝炎へとつながります。

 

次回もB型肝炎ウイルスのおはなしを続けますね。