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3 総論:侵入経路(4)接触感染

ここからは、ヒトから他のヒトへと直接微生物が移動するおはなし。

接触感染と、血液感染ですね。

 

接触感染は微生物のいるヒトと

皮膚や粘膜が接触することで起こる感染。

代表は粘膜同士の接触による性感染症

(STD:sexually transmitted diseases

又はSTI:sexually transmitted infections)ですね。

不妊の原因として、胎児に深刻な影響を与えうる感染症(TORCH)として、

母性看護で勉強すると思います。

「TORCH」というのは、

胎児の生命を脅かしたり(結果、死産や流産)、

重大な障害が残ったりする感染症の頭文字。

Tはトキソプラズマ(原虫)、Oは「その他(others)」、

Rは風疹ウイルス、Cはサイトメガロウイルス、

Hは単純ヘルペスウイルスです。

Oの「その他」に淋病や梅毒、HIVなどが入ります。

性の多様化も相まって、接触する粘膜は性器に限られません。

特に咽頭は性感染症の感染可能性を忘れてはいけませんよ。

 

粘膜は物理的防御の1つですが、

微生物は皮膚よりも入り込みやすくなっています。

じゃあ、もっと丈夫な物理的防御の皮膚なら接触しても問題ないかというと…

そうも言っていられません。

接触した皮膚の上から、他の物経由で体の中に入り込む可能性があるからです。

 

例えば、プール熱(咽頭結膜炎)。

のどの痛み(咽頭炎)と目の充血(結膜炎)が出る

アデノウイルスによる感染です。

感染している人が目をこすり(皮膚にウイルス)、

ドアノブに触ると(ドアノブにウイルス移動)、

他の人がドアノブに触って(皮膚にウイルス)

目をこすると…感染が広がります。

同じことはプールのタオル共用でよく起こるので、「プール熱」です。

タオルを共用にしないこと、

そしてプールから出たらよく目を洗うことが必要ですよ。

 

また、皮膚の防壁がないところは微生物にとって絶好の侵入経路。

褥瘡や火傷等による皮膚の損傷があるところは、

感染に十分注意しないといけません。

重度の褥瘡は(細胞が壊死して、皮膚がなくなっていますから)

見た目からして「大変だ!感染危険!」と気付けると思います。

でも火傷(やけど)は

「いたた…水膨れになっちゃった。つぶしちゃえ!」と

軽視してしまう人もいるのでは?

水膨れを破いて(つぶして)しまうと、

皮膚の防壁に穴が開いてしまいます。

穴の開いたところからは、

微生物が自由に体の中に入ってきてしまいますよ!

だから、水膨れはつぶさないこと。

どうしても水膨れをつぶすなら、消毒した針で穴をあけて水を押し出した後、

ちゃんと清潔な布で覆って微生物の侵入を防いでくださいね。

 

同様に、皮膚の物理的防御が一部なくなる例が「手術」ですね。

しかも皮膚だけでなく、血管にまでメスを入れることになるはず。

血液中に微生物が入り込んでしまうと、

一気に全身をめぐることになります。

部分的な感染が、全身的な感染に変わってしまうということです。

だから、手術のときには使う器具を

滅菌(微生物を全滅させること)しなくてはいけません。

 

そして忘れてはいけないのが常在細菌の存在です。

常在細菌は普段いるところから違うところに行くと、

ヒトに悪さをしてしまう可能性がありましたね。

メスを入れるところだけでも、

常在細菌を減らす(可能ならば殺す)必要がありそうです。

「可能なら殺す!少なくとも病原性だけは失わせる!」

…消毒のおはなしですね。

あとで「消毒・滅菌と微生物」についておはなしします。

そのときには「皮膚の防御壁に穴を開けて、

血液にまで入り込むと危ないから!」と思い出してくださいね。