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10 脳神経系のおはなし(3)変性障害と異常の結果(5)

D 脊髄小脳変性症

小脳の神経細胞がおかしくなってしまったものが

「脊髄小脳変性症(SCD)」。

小脳を中心に脊髄その他の神経系がおかしくなり、

歩行時のふらつきなどの症状を示す疾患の一群です。

30以上の病気が含まれますが、

約3割は常染色体優性の遺伝性疾患です。

多くはグルタミン酸の塩基配列が

おかしい(多すぎる!)ために起こる

「ポリグルタミン病」です。

残りの7割の中には、

他の病気のせいで起こっているものが含まれます。

がんや炎症、自己免疫疾患、

甲状腺低下症やアルコール等の中毒、

薬物等によっても脊髄小脳変性症が起こります。

治療可能かつ二次的な(「他の病気のせいの」)

小脳失調は見逃してはいけませんよ。

 

症状としてはふらつき、酩酊歩行等の小脳性歩行失調。

失調性構音障害や眼振、筋緊張低下や

四肢の協調運動障害が出てきます。

四肢の協調運動障害が出ると

「継ぎ足歩行」ができなくなります。

歩幅を限界まで縮め、

片足のつま先にもう片足のかかとをくっつけて歩くのが

「継ぎ足歩行」です。

 

「…うまく歩けなくて、うまくしゃべれない?

それって、酔っぱらっているだけ?」

 

まさに、アルコールによって

小脳の働きが麻痺している状態が、小脳失調です。

アルコールは中枢(脳・脊髄)の働きを麻痺させていきます。

ここについては、精神のところで補足しますね。

 

二次性小脳失調なら、原因対策がそのまま小脳失調の治療。

他の病気のせいではない原発性のときには、

根本的治療は見つかっていません。

進行自体はゆるやかなので、

生命予後が大きく害されることはありません。

でも肺炎や尿路感染症、転倒骨折等の

合併症を引き起こしてしまうと

急に日常生活動作が害され、生活の質が下がります。

対症療法とリハビリテーションを加えて、

家族も交えた生活指導が必要ですね。

家族会等の情報提供もお忘れなく。

 

神経細胞がおかしくなって

命令が過剰に出てしまうことがあります。

そのうちの1つ「ジストニア」についておはなししますね。

これは中枢からの過剰興奮性信号によって筋肉が異常に興奮し、

異常な姿勢・運動をきたすものです。

原因は、よく分かっていません。

 

症状は多様ですが、

原則として筋肉の過緊張による、上半身(特に顔)の動きです。

まばたき(瞬目)が増え、

ひどくなると実質的に「見えない!(失明状態)」になる

「眼瞼けいれん」。

首が曲がった姿勢を維持してしまう「痙性斜頚」。

筆記具を握って字を書けない「書痙」などが出てきます。

 

これらの症状に対して、

ボツリヌス治療が行われることが多いですね。

「ボツリヌス」とは、

食中毒で有名なボツリヌス菌の神経毒素のこと。

過剰興奮している神経を、ボツリヌスの毒素で麻痺させて、

筋肉に収縮命令が届かないようにするのです。

眼瞼けいれんと痙性斜頚が出ているところに注射すると、

3か月から半年くらい効果が持続します。

それでも不十分だと、電極埋め込み(DBS)等の

外科的治療が行われることもあります。

症状自体はゆっくり進行し、

それ自体が生命に危険を及ぼすものではありません。

でも日常生活への影響が大きく、体力消耗がとても激しい病気です。

栄養状態には、ちゃんと注意してくださいね。

筋肉の過労・破壊から腎臓にも負担がかかっていますよ。

そして不安受け止め等のメンタルサポートも大事になってきます。