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10 脳神経系のおはなし(3)変性障害と異常の結果(4)

C 筋萎縮性側索硬化症

運動神経細胞がおかしくなってしまう代表は

「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」。

上位・下位の運動神経細胞(ニューロン)が

選択的に障害される、原因不明の病気です。

上位運動ニューロンとは、

大脳から脳幹・脊髄に情報を伝える神経細胞のこと。

下位運動ニューロンとは、

そこから顔面や四肢といった末梢へ

情報を伝える神経細胞のことです。

運動神経がおかしくなった結果、

全身の筋委縮と筋力低下がゆっくりと、確実に進みます。

生命に直結する筋力低下が呼吸筋筋力低下。

人工呼吸器が必要になってくると、

感染可能性が上がってしまいます。

発症から3~5年で死に至ってしまうことが多いですね。

 

下位運動ニューロンがおかしくなると出るものが

「下位運動ニューロン徴候(前角細胞徴候)」。

筋力と筋緊張(筋トーヌス)が低下し、

筋委縮が進行していきます。

下肢だと「スリッパが脱げやすい」

「転びやすくなった」という現れ方をします。

球症状と呼ばれる発語・嚥下に関係する筋肉も障害されます。

言葉がゆっくり、言語不明瞭になる。

噛む、飲み込むが困難になり、

誤嚥性肺炎が怖くなってきますね。

ここについては延髄(「球」)から出る

脳神経を思い出せばイメージしやすいはずです。

 

上位運動ニューロンがおかしくなると出るものは

「上位運動ニューロン徴候(錐体路徴候)」。

痙性麻痺、腱反射亢進、病的反射亢進、

腹壁反射の消失又は減弱のことですね。

手足が突っ張り、曲げられないものが痙性麻痺。

筋の付け根の腱をたたくと筋収縮が起こるのが腱反射。

膝の下をたたく大腿四頭筋反射が分かりやすいですね。

病的反射の代表がバビンスキー反射。

足の裏を、かかとからつま先方向へゆっくりと強くこすったとき、

親指が内側に向けば正常ですが、

甲側へ背屈してしまったら陽性反応。

赤ちゃんで出るなら心配ありませんが、

大人で出たら異常(病的)反応です。

腹壁の皮膚を周囲からへそに向かうように軽くさすると、

腹壁が収縮するのが腹壁反射です。

これら錐体路徴候は、

ちゃんと中枢が運動命令を出せるときには出ないはずです。

中枢が運動命令してくれないので、

仕方なくとっている反応だと思ってくださいね。

「錐体路」という言葉については、次回おはなししますからね。

 

根本的治療はなく、症状の進行も止まりません。

だから各作業療法士の力を借りたリハビリテーションが大事!

例えば呼吸訓練をすることで、痰を出しやすくなります。

痰が出れば、空気を出し入れしやすくなり、

呼吸筋の筋力が低下しても呼吸が楽にできますね。

筋力が一定以下になってしまったら、

経管栄養や人工呼吸器に頼らざるを得ません。

介護保険・医療保険の特定疾病・疾患でもあります。

もちろん全国に患者会や家族会があるので、

本人のみならず家族にもケアと情報を提供してくださいね。