11 精神のおはなし(1)せん妄、認知症、うつ病(5)
2 抑うつ状態・うつ病
お次に「抑うつ状態」に入りましょう。
まず「抑うつ気分」というものがあります。
これは「落ち込む、滅入る(めいる)」気分のこと。
下向きの感情ですね。
小児や若年では下向きにならずに
怒り出す易怒性反応が出ることもあります。
イメージとしては準備に手を付けていない試験の前日。
さっぱり諦められればいいのですが…。
「もうだめだ…」「どうしよう…」
「明日なんか来なければ…」
「なんでテストなんてあるのさぁ!(易怒性)」
…これが抑うつ気分です。
この気分が一定期間続くと「抑うつ状態」。
ここに「興味・喜びの喪失」が加わってしまったものが
「うつ病(うつ)」です。
(1)基本的理解
うつ病は食欲の低下、不眠、易疲労感、無価値観、
罪責感、思考力・集中力の低下、精神運動停止、
死についての反復思考等を呈する
精神疾患・気分障害の一種です。
遺伝的素因に身体要因と心的要因が加わって
発症すると考えられています。
「うつ病」は、100%「精神」領域の話ではありません。
一般身体疾患・薬物等の影響で二次的にうつ病の症状が出る
「外因性」うつ病もあります。
今まで勉強してきたものがたくさんありますよ。
中枢のおはなしで出てきた脳炎、脳腫瘍、脳血管障害、
てんかん、パーキンソン病、
ハンチントン病だけではありません。
甲状腺機能低下症等の内分泌・代謝異常、電解質異常、
HIVや梅毒といった感染症も立派な原因です。
免疫に影響するステロイドやインターフェロン、
血圧に影響する降圧剤、
痛み止めのアンフェタミンなども原因になりえます。
もっと直接的な「薬物」の
アルコールやコカイン等は、少し後でおはなししますね。
家族との死別のように
過度の心理的負担によるものは「心因性」、
心因的要素が少ないものは「内因性」と呼ばれます。
症状の基本は「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」。
「昔は楽しいことがあったのに…
楽しくない…ずっと落ち込む…」状態ですね。
他にも「おいしく感じない(食欲低下)」、
「寝付けない・途中で目が覚める(不眠)」、
「お風呂すらもおっくう(易疲労感)」、
「新聞やTV、スマホの内容が頭に入らない
(思考力・集中力低下)」、
「自分はダメだ、こうなったのは自分のせいだ
(無価値感・罪責感)」、
「死んだほうがましだ、死にたい
(希死念慮・自殺企図)」等が出てくることがあります。
あと、妄想も出てくることもあります。
本当は身体的に悪いところはないのに
「重大な病気にかかっている」と思い込む
心気妄想等が出やすいようです。
加えて、各種の身体症状を訴えてくることも。
高齢者ではこの傾向が強く、
各所の検査をして問題が見つからず、
最後にようやく「うつ病か!」と気付かれることもありますよ。
基本的治療は休養と、薬物療法と、精神療法(非薬物療法)。
もちろん外因性うつ病なら、「外因」の治療が一番です。