4 消化器系のおはなし(10)
排出のおはなしですが、出される「便」について補足。
前回「便の約1/3は水」といいました。
残りは約1/3が食べ物だったもののかす(食物残滓)、
約1/3が腸内細菌の死骸です。
「…細菌?!大変!病気!」なんて早とちりしないでくださいね。
腸内細菌は、ヒトが生きていくうえでとても大事な友達。
腸内細菌は菌叢(フローラ)を作って腸管内で生きていますが、
その大部分は人に害を及ぼしません。
大腸菌のように体外に出てしまうと有害なものはありますが、
原則は腸管内無害。
むしろ私たちにビタミンを作ってくれる「善玉菌」すらいるくらいです。
善玉菌という名前の菌がいるわけではありません。
ヒトにとって「いい(ものを作ってくれる)菌」を、
まとめて「善玉菌」と呼んでいるだけです。
普段ビタミンKやビタミンB6の欠乏症にならずに済むのは、
善玉菌のおかげなので腸内細菌には「感謝!」ですね。
もちろん、体の中に入ってきたら問答無用で有害な細菌もいます。
そちらは微生物学でたくさんお目にかかれるはず。
…で、そんな細菌たちが体の中に入り込んできてしまったとき、
腸管は一刻も早くそれらを体の外に出そうとします。
それが下痢の一因。
例えば冬場に猛威を振るうノロウイルスによる下痢では、
下痢止めを使ってはいけません。
下痢止めを使うということは、腸管の動きを止めてしまうということ。
つまり、腸管内にノロウイルスが滞在する時間が長くなります。
ノロウイルスは小腸上皮細胞を抜け落としてしまうため、
ノロウイルスがいる時間が伸びれば、どんどん状態は悪化していきます。
…だから、苦しくても下痢止めを使わずに
ノロウイルスを腸管外へ押し出してしまう方がいいのです。
もちろん、場所が中途半端なので上(上部消化管)からも
食べ物と一緒にウイルスの追い出しは行われます。
これが「嘔吐」です。
以上、腸内細菌のおはなしついでに、下痢の原因についておはなししました。
細菌ではなくウイルスの例でしたが、原理は一緒。
「どうして下痢や嘔吐の必要があるのか」
そこが分かると、微生物学や病態学の勉強がすすみますよ!
体外への出口、直腸・肛門付近も確認しておきましょう。
出口から5~6㎝程上にある「コールラウシュひだ」は覚えてしまいましょう。
これ、肛門から薬を入れる浣腸で重要になります。
肛門から薬を入れるとき、
肛門部だけではなくもっと前(S状、下行結腸等)に薬を届かせたいことがあります。
そのとき、このひだより奥にいれないと薬は前部に届きません。
あまり奥に入れると、浣腸の種類によっては直腸部に傷がついてしまうので、
長さは正確に把握してくださいね。
また、浣腸では結腸の走行も大事になります。
浣腸時に体を横にして(側臥位)薬を注入しますが、
左を下にした側臥位(左側臥位)にしないと、薬が結腸へと流れていきませんよ。
結腸の走行を思い出してみましょう。
右は小腸とつながっている上行結腸、左が肛門につながる下行結腸です。
しかも側臥位になったとき肛門より下に位置して薬が流れるのは、
左側臥位にしたときの下行結腸ですよね。
文字でイメージできないときには、図を横にしてみてくださいね!