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5 タンパク質のおはなし(5)

2022年3月25日

酵素の特異性についてのおはなしを始めます。

特異性とは「狙ったものだけを、間違わない」という意味。

糖の消化酵素は、タンパク質を消化しません。

グリコシド結合は切れますが、

アミノ酸とアミノ酸の間の結合

(「ペプチド結合」)は切れないのです。

…今、さりげなく大事な結合の名前が出てきました。

タンパク質の結合は、ペプチド結合です。

糖のグリコシド結合のように、とても大事な結合名です。

しっかり覚えてくださいね。

 

この特異性は、決まったものだけに作用するのが基本です。

ちょっと難しい言い方をすると、

「酵素が働く基質は決まっている」といいます。

基質酵素が働く相手のこと。

酵素が働いた結果できたものは反応生成物といいます。

以前勉強したマルトースの例で確認すると…。

『マルターゼという酵素は、マルトースを基質として、

グルコース2個が反応生成物になります。』という文章は、

「マルトースにマルターゼが働くと、グルコースが2個できる」と

言っているのですね。

具体例で考えれば、さほど難しい話でもありませんよ。

 

このように酵素は基質を間違えないのが基本です。

なのですが…あまりに似ていると間違うことがあります。

形は同じで色違い…なんてものがあると、

さすがの酵素も勘違いしてしまいます。

酵素の間違いをうまく利用したものが、薬です。

 

酵素の邪魔の仕方は、大きく3つに分けられます。

「拮抗阻害」「非拮抗阻害」「不拮抗阻害」です。

 

拮抗阻害というのは、先の「色違い」の例ですね。

実際の例としては、ワーファリンとビタミンKが有名。

ビタミンKというのは、血を止める(止血)に関係するビタミン。

本来大事なビタミンですが、

血管内でかさぶたができやすい状態の人には…多すぎは困ります。

そんなときに使われるのがワーファリンというお薬。

ビタミンKに似た形をしているため、

ビタミンKに働くはずの酵素が勘違い。

ワーファリンに酵素がくっついても、血は止まりません。

だから、ワーファリンには血液凝固阻害(血栓防止)効果があるのです。

…でもビタミンK自体の量が増えてしまったら、

ワーファリンに勘違いしてくっつく酵素は減ってしまうので。

ワーファリンを飲んでいるときには、

ビタミンKが多く含まれる納豆は食べちゃいけません。

 

 

非拮抗阻害は酵素にくっついて邪魔をするのですが、

基質がはまるところ以外にくっつくもの。

はさみのグリップの間に

物がはさまって切れない…とイメージしてください。

不拮抗阻害は酵素と基質がくっついたあと、

外側から覆ってしまうイメージ。

これだと反応生成物は出ず、

酵素は他の基質にくっつくこともできません。

薬の基本は酵素の邪魔。

その土台にあるのは、

酵素の特異性ということを理解してくださいね。

 

【今回の内容が関係するところ】(以下20220326更新)