5 タンパク質のおはなし(6)
酵素の特異性を応用したものがお薬…というおはなしは前回。
今回はもう1つの応用、逸脱酵素に入ります。
最初に注意。
「逸脱酵素」という名前の酵素はありません。
「血液中に出てきてしまった(逸脱してしまった)酵素」だから、
逸脱酵素と呼ばれているだけです。
では、逸脱とはどこから出てきたのか。
それは「酵素のあった細胞(の中)」からです。
…じゃあ、どんなときに出てくるのか。
細胞が、壊れてしまったときです。
つまり、逸脱酵素が出ているということは
「細胞が壊れてるよ!大変!」というサインなのです。
いろいろな酵素が逸脱酵素になりえますが、
ここでは看護の世界でよく出る逸脱酵素に限定しますよ。
一番わかりやすいのが、
特定の細胞(組織・器官)にだけ含まれている酵素が逸脱したときです。
例えば、アルカリホスファターゼ(ALP)。
これは骨に特徴的に存在する酵素。
血液にアルカリホスファターゼ(ALP)が出て(逸脱して)いたら、
「あっ!骨の細胞が壊れた!どうしたの?!」と気付けます。
対応が分かりやすくて、とてもいいですね。
同様に対応が分かりやすい逸脱酵素に
γ-GTP(ガンマ-GTP)とALTがあります。
こちらは肝臓にだけ含まれますから、
γ-GTPやALTが逸脱していたら肝臓のピンチですね。
…他の酵素は、1か所には絞れません。
よくて「2か所にしぼれる」くらいです。
そんなとき、サブタイプまで知ることができれば便利です。
サブタイプは
「よく見ると、酵素の種類がちょっと違うね」という意味。
例として、乳酸脱水素酵素(LDH)を見てみましょう。
乳酸脱水素酵素が含まれているのは心臓と肝臓です。
γ-GTPかALTを調べることができれば簡単そうですが。
それができないとき、LDHのサブタイプが分かると…。
心臓はLDH1、肝臓はLDH5と見事にすみ分けができています。
サブタイプまで分かるなら、
どちらの細胞がピンチなのかすぐに分かりますね。
同様にクレアチンキナーゼ(CK)も
脳、心臓、骨格筋に含まれますが、
サブタイプまで分かれば場所を特定できますよ。
…残念ながら逸脱酵素そのものでは場所をしぼれないものもあります。
あまりにも色々な場所で活躍している酵素、ということですね。
代表例はAST。
脳、心臓、筋肉、肝臓…ううむ、困った。
こんなときには、他の逸脱酵素と合わせ技です。
LDHも調べられれば、心臓・肝臓か、そうでないかが分かりますね。
CKも分かるなら、脳・骨格筋か、そうでないかが分かります。
このように合わせ技はとても便利!
簡単な「1対1」対応の逸脱酵素から覚えて、
すぐに解けるようにしておくといいですね。
【今回の内容が関係するところ】(以下20220326更新)