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10 脳神経系のおはなし(2)感染・腫瘍・脱髄性疾患(2)

HIVと同じく白血球に感染するレトロウイルスが

ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)。

成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスですね。

このウイルスのⅠ型は、

脊髄をおかしくしてしまう

「HTLV-1関連脊髄症」を引き起こします。

徐々に進むしびれ、

感覚鈍磨、歩行障害、排尿障害が特徴で、

なぜか九州以南に多く見られます。

 

感染したらすべて発症するわけではなく、

保因者の0.2%ほどが発症する、

幾分女性に多い病気です。

高齢者や軽度障害なら、リハビリをしつつ、

歩行障害原因のけいれんを除くための

薬物療法(筋弛緩薬)を行います。

それ以外なら、インターフェロンや

副腎皮質ステロイド等の薬物療法ですね。

合併しやすいのは自己免疫疾患

(シェーグレン症候群や多発性筋炎)と、

成人T細胞白血病。

どんな病気だったか、ちゃんと見直しておきましょうね。

感染経路は輸血や性行為、経子宮感染もありますが、

メインは母乳による母子感染です。

人工乳にするか、

「どうしても」ならば母乳凍結が必要です。

あらかじめ抗体検査をしておくことが重要ですね。

メイン感染経路ではありませんが、

性行為時に気を付けることは性感染症と同じ。

あとは血の付く可能性のある

歯ブラシの共有はやめましょうね。

針刺し事故には「注意!」ですよ。

 

胎児に危険なTORCHのHは単純ヘルペスウイルス。

単純ヘルペスウイルスは、ウイルス性脳炎の主役です。

単純ヘルペス脳炎は、

発熱から数日後にけいれん、意識障害が出ます。

さらに海馬や扁桃体のある

大脳辺縁系が害されて記銘障害。

側頭葉が害されて感覚性失語、

人格変化、異常行動まで出てきます。

海馬をはじめとする大脳辺縁系と間脳は

記憶に関係する場所。

そして左側頭葉には言語野の1つ

ウェルニッケ野があったことを思い出してくださいね。

意識障害が出るということは、

何はなくとも気道の確保!

栄養状態を維持しつつ、

脳浮腫とけいれんに対応する治療が必要です。

放置すると約7割が死に至るとされています。

これは意識状態が悪いと、

感染症や低酸素血症等の合併症を引き起こしやすいからです。

意識状態早期回復のために

「脳浮腫・けいれんを急いで治療!」ですね。

 

単純ヘルペスウイルスがウイルス性脳炎の主役とするなら。

もう1人(?)の主役は、ワクチン対象の日本脳炎。

日本脳炎は致死率30%以上かつ、

回復後も半数以上に重い後遺症

(歩行障害、知能障害等)が残る病気。

蚊によって媒介され、

発熱、頭痛、麻痺、けいれん、

意識障害を起こす急性脳炎の原因です。

以前は日本で年1000人ほどが感染していましたが、

ワクチンを作れるようになり、

接種が広まったおかげで発症は年10人ほどに減りました。

免疫が経年減弱化していくため、

ワクチンを受けていても発症してしまう人は出てきます。

現在でも定期接種の中に含まれていますから、

ちゃんと接種して防げる脳炎は防止していきましょう。