3 脈拍・血圧のおはなし(2):血管(血栓・塞栓:挫滅症候群)
エコノミー症候群のように長時間経過後が怖いものに
「挫滅症候群(クラッシュドシンドローム)」があります。
事故や自然災害等でがれきの下敷きになり、
救出後に急変が生じる症候群です。
これは身体の一部が長時間圧迫され、
筋肉が損傷し、壊死してしまったことがスタート。
救出されて、圧迫から解放されると、
血液中に壊死した筋細胞から
カリウムイオン、乳酸、ミオグロビンが流出します。
乳酸はアシドーシスの原因。
ミオグロビンは尿細管に詰まって急性腎不全の原因。
そしてカリウムイオンは、
高カリウム血症から心室細動を起こし、心停止の危険…。
いずれも、死につながるものばかりです。
「救出!息も意識もある!よかった!」
…ここで終わってはいけません。
むしろここから先が、医療職としては正念場なのです。
血栓はじめ、塞栓子が詰まる先の多くは肺(肺塞栓)です。
これは、血液の流れを思い出して見ればわかりますよ。
例えば、エコノミー症候群で血栓ができる可能性が高いのは下肢の血管。
そして動脈と比べて静脈では
血液の流れが遅くなります(勢いがない)から、
血液停滞は静脈で起こることになります。
そこで血栓ができると、しばらくは太い静脈の中を流れます。
大静脈から右心房に入り、右心室についても太いところばかりです。
でも、肺動脈の先には肺胞に向かう毛細血管が待っています。
肺胞を取り巻く毛細血管は、
酸素と二酸化炭素の交換をするためにごく細くなっていましたね。
かなりの確率で、
静脈系で出来た血栓(塞栓子)は肺で塞栓を起こします。
肺塞栓が原因の1つとなっているものが「肺性心」です。
肺性心は、呼吸器系異常の結果生じた、
主に右心室の拡張・肥大を伴う障害のこと。
右心系の心不全で何が起こるかは、前回確認した通り。
呼吸困難、浮腫…でしたね。
今回は、「呼吸器系異常」のところをもう少し見てみましょう。
つい先ほど出てきた肺血管系の塞栓は、呼吸器系異常の一例。
イメージ通りの呼吸器系の異常は「換気障害」ですね。
うまく換気(酸素を体に取り入れ、二酸化炭素を体の外に出す)ができないと、
肺胞の周りの血管が収縮して、血管の抵抗が上がります。
こうすることでその部分の血圧が上がり、
流れてくる血液の量が減るはずです。
換気できていないところにたくさん血液が流れても、
酸素を取り込めない以上無駄になってしまいますね。
それならば、
ちゃんと換気のできているところに血液をたくさん流したいはずです。
だから血管の収縮によって、うまく換気できていないところでも
「換気と血流の比」が一定に保たれるようになっているのです。
これが、局所で済んでいるうちは問題ありません。
…全体が、うまく換気できなかったらどうなりますか?
肺の血圧が上がってしまいますね。
これが「肺高血圧症」です。
原因が換気障害なら、酸素療法の対象になります。
原因が肺血栓(肺塞栓)なら、主に薬物療法となります。
抗凝固薬でこれ以上の悪化を防ぎつつ、
利尿薬で体内水分を減らし、血管拡張薬で血管を広げてあげましょう。
はじけた後の血栓、塞栓のおはなしは一段落。
大動脈瘤と大動脈解離のおはなしに入りましょう。