2 「健康」とは:(1)「生きる」ために(1)
ここからはヒトの「健康」に注目していきますが。
まずは、大前提の大前提から行きましょう。
「動物が生きる」ためには、何が必要ですか?
極力面倒くさがりなナマケモノでもすることは、
「食べる」「寝る」「殖やす(ふやす)」ですね。
これらをしないと、生物として種の存続ができません。
「食べる」と「寝る」…
これらは基礎看護学で勉強するマズローの「生理的欲求」ですね。
いきなり脱線。
「マズローの基本欲求」を簡単に。
マズローはヒトの欲求を、大きく5段階に分けました。
下の段階の欲求が満足されないと、
上の欲求は出てこない(当然、満足できない)ピラミッド構造ととらえたのですね。
一番下が食事や排泄、睡眠に関する「生理的欲求」。
その上には安全や健康といった「安全欲求」があります。
下2つの欲求を満たせたら、
帰属や受け入れられに関する「社会的欲求」が出てきます。
下3つが埋まったら、名誉や自己尊重といった「承認欲求」。
一番上に位置するのが創造性発揮に関する「自己実現欲求」です。
マズローの欲求の一番下にある「生理的欲求」。
食べること(と出すこと)、眠ることはまさに生理的欲求そのものです。
…動物とヒトとで大きく異なるのは
ヒトでは「殖やす」が後回しになってくること。
これは属する集団(社会)によって左右される行動でもあるから…ですね。
脱線から話を戻して。
「動物が生きる」ための、
「食べる」「眠る」「殖やす」をもう1度見てみましょう。
「殖やす」は生殖行動のこと。
「寝る」は休息であり、睡眠のことですね。
「食べる」は…様々な要素を含んでいます。
食事は栄養としての側面を含みます。
同時に不要物(栄養吸収後の「食べ物だったもの」)を排出する必要も
忘れてはいけませんね。
そして「(食品)衛生」の問題が深く関係し、
オプションとしての「嗜好品」の話も出てくるところです。
この「食べる」を満たすことができないと、
餓死や感染症による生命危険に直面することになります。
例えば、上下水道(特に上水道)の普及と、
水系伝染病患者数、乳児死亡率の関係を見てみましょう。
死亡率を大きく左右するのは、「(乳児)下痢症」です。
乳児死亡率というのは、
「出生1000人当たり乳児は何人死亡しますか」という数字。
2017年の日本は1.9と少なく、
フィンランドと並んで世界トップクラスの低い値です。
乳児死亡率を大きく左右するのは、
「(乳児)下痢症」に代表される水系伝染病です。
現在でも乳児下痢症を引き起こす原因になる
ロタウイルスやノロウイルス等がいますよね。
上下水道がないと、
ここに赤痢アメーバ等の原虫系下痢症が追加されてしまいます。
乳児の体内水分は体重の65~70%。
成人(体重の約60%)より水分に頼るところが大きいのが特徴です。
ところが、下痢は消化管から十分な水分を吸収する前に
食べ物(だったもの)を体の外に排出してしまいます。
医療機関等で適切な水分補給ができなければ、
すぐに乳児の体は水分不足に陥ってしまいます。
体内水分不足は、突き詰めると血液(循環水分量)不足になり、
細胞もヒトも生きていけなくなってしまいますよ!
以前の日本は上下水道とも普及率が低く、
乳児死亡率は60を上回っていました。
1950年代に上水道普及率が50%を超え、
それ以降確実に水系伝染病患者も乳児死亡率も下がりました。
1975年には乳児死亡率は10まで下がりましたよ。
そして現在の乳児死亡率はわずか1.9。
医療進歩のおかげもありますが、
「(食品)衛生」の重要性は分かってもらえたと思います。
もちろん「(食品)衛生」は、土や空気といった環境の影響も受けます。
そこについてはマズローの「安全欲求」(下から2番目)の対象ですね。
このように、マズローの生理的欲求は
「生きる」ために必要な「満たされるべきもの」。
欠けてしまうと、死に向かうことになります。
生きていなければ「健康」について考える余地はありませんから、
「生と死」が大事な切り口であることは分かってもらえたはずです。
だからこそ、
「死」についての数字やその原因はよく確認する必要があるのですね。
次回は、年代別死亡原因を見ていくことにしましょう。