11 各論5:細菌(2)桿菌のグラム陽性(5)
(b)ボツリヌス菌
ボツリヌス菌も土壌に広く存在する菌。
培地に溶血が出る点も、毒素が悪さをする点も破傷風菌と同じですね。
こちらのヒトへの侵入ルートは肉類。
肉をソーセージや缶詰、レトルト化した後に加熱が不十分だと、
芽胞が生き残ってしまいます。
芽胞は単なる煮沸だったら5時間以上かけないと殺せません。
121℃にできるオートクレーブなら20分で死滅します。
もしくは水分のない乾熱(オーブン)でも、
180℃の15分で不活性化できますよ。
ボツリヌス菌の毒素もタンパク質。
毒素自体は80℃、30分の加熱で失活しますので、
こちらは「ちゃんと加熱する」意識があれば大丈夫です。
とはいえ、芽胞が生き残っていたら元も子もありません。
ボツリヌス菌の毒素は菌の中に出来る毒。
菌が壊れると外に出て、
ヒトの消化管で活性化し、消化管で吸収されます。
そして運動神経と筋肉の結合部にくっついて、
アセチルコリンの放出を抑制します。
筋肉に収縮命令が届かなくなって…「弛緩性麻痺」のスタートです。
これを利用して、
ボツリヌス毒素は顔面けいれんや斜視、
斜頚の治療に使われることもありますね。
ボツリヌス菌の引き起こす病気は4つ。
代表は毒素型食中毒の「ボツリヌス中毒」。
弛緩性の麻痺によって複視や嚥下困難を起こし、呼吸麻痺から死に至ります。
食品を口にしてから発症までの潜伏期は10時間から20時間。
これまた潜伏期が短いと死亡危険性が高まります。
あと、1歳未満の乳児にはちみつが禁止される理由の「乳児ボツリヌス症」。
はちみつの中に芽胞侵入が見つかったからですね。
1歳以上で菌が腸管内に定着(数か月以上いる状態)になってしまうと、
「成人腸管定着ボツリヌス症」になります。
破傷風菌のように傷口から入ると「創傷ボツリヌス症」ですが、
かなりの量の菌が体内に入らないと発芽しにくいようです。
だから代表格の「ボツリヌス中毒」と、
発症すると特に重症化が心配な「乳児ボツリヌス症」の2つを
まず意識してくださいね。
治療法は抗毒素血清の注射になります。
ただ、一度発症してしまった後は効果が思わしくないため、
対症療法の人工呼吸器を急いで準備してください。
毒素が解毒されて自発呼吸が戻るまで、人工呼吸器が必要になりますからね。
続いてディフィシル菌(クロストリジオイデス・ディフィシレ)。
ふだんから、ヒトの腸内に少しだけいる菌です。
この菌の怖さは、抗生物質を長期にわたって飲んでいるときに出てきます。
常在細菌が抗生物質でやられてしまい、菌交代症を起こすと
偽膜性大腸炎の原因になってしまいます。
ウェルシュ菌は、ガス壊疽菌群の一員です。
芽胞を作って、土壌にいて、嫌気条件がそろうと一気に増殖します。
「ガス壊疽」というのは、傷口から体内に入った菌が筋肉や皮下組織で増え、
菌体外毒素によって周辺細胞を壊死させてしまうこと。
複数の菌がガス壊疽を起こしますが、
その多く(7割近く)はウェルシュ菌が原因です。
ガス壊疽になってしまったら、外科的に取り除いてしまわないといけません。
薬や高圧酸素療法(嫌気性菌なので酸素がいると増えられない)もありますが、
それらはあくまで補助にしかすぎませんよ。
じゃあ、傷のあるところで土に触れなければいいのかというと。
ウェルシュ菌の一部には、
腸管毒(エンテロトキシン)を作るものもいます。
深い大鍋で作ったシチューやスープを常温に置いておくと、
酸素の入らない下の方で増殖してから体内に入り込んでくることも!
ヒト体内で芽胞を作るときに栄養型の菌体が壊れ、
毒素を腸管内にまき散らして下痢を引き起こす可能性がありますからね。