10 脳神経系のおはなし(2)感染・腫瘍・脱髄性疾患(8)
3 脱髄性疾患
神経細胞内の情報伝達は電気。
情報を早く漏れなく伝えるために、
軸索の周りを髄鞘がくるんでいます。
この「くるんでいる部分(髄鞘)」が
なくなってしまうものが脱髄性疾患です。
代表的な多発性硬化症(MS)から
髄鞘の需要性を理解しましょう。
多発性硬化症は、
中枢神経系(脳・脊髄)に脱髄性の病変を生じ、
様々な神経症状を引き起こすもの。
「脱髄性」とは、
炎症等によって髄鞘のみが選択的に脱落してしまうこと。
電気的興奮(インパルス)の伝達障害が起こってきます。
「炎症等」とあるように、様々な引き金はありますが
脱髄が起こる原因は不明。
免疫機序と遺伝的要因に、
環境因子も加わって起こることは分かっています。
症状は再発と寛解を繰り返す運動麻痺、
感覚障害、脳幹部症状、小脳症状、
膀胱・直腸障害に精神症状等。
感覚障害はしびれ、ピリピリ感のほか
視力・視野障害も含まれます。
脳幹部症状には
めまい、吐き気、嚥下障害や
ろれつのまわらない構音障害が出てきます。
小脳症状では運動失調や、
目的ある動作をしようとすると上肢が震える
企図振戦が出て、
膀胱・直腸障害では便秘、
頻尿・尿意切迫を放置していると尿閉になってしまいます。
精神症状では感情不安定や多幸、抑うつ等が出てきます。
これらが、神経細胞の情報伝達失敗で起きてしまうのです。
20代(どちらかといえば女性に多く)に
発症のピークがあります。
急性(増悪)期には、副腎皮質ステロイドパルス療法。
あとは安静にして疲労をとり、ストレスを避けましょう。
症状から、膀胱障害由来の感染症と
誤嚥性肺炎に注意することは分かりますね。
少し落ち着いた寛解期には、
インターフェロンも使われますが。
かゆみ・発赤・疼痛等の注射部位反応が出ることと、
白血球数が減ることには注意ですね。
白血球数が減ると…当然、感染への抵抗力が下がりますよ。
慢性期には症状に応じた薬物・対症療法になります。
予後はきわめて多様です。
多発性硬化症自体が死因になることはありませんが、
使った薬の副作用はじめ合併症の存在が厄介です。
気温上昇や発熱といった
体温上昇が神経症状を悪化させるので、
運動や入浴はやり方を考える必要がありますね。
全くしないのはダメですよ。
関節が拘縮してしまいますし、清潔も保てません。
発熱予防のためにも、
なんとしてでも感染を防ぎましょう。
栄養のバランスをとりつつ、
規則正しい生活を心がけること。
仕事や家庭での無理は、
ストレスになって増悪のきっかけになりますよ。