11 精神のおはなし(2)双極性障害、統合失調症、物質使用障害、ストレス障害(5)
3 使用障害
(1)アルコール使用障害
アルコール使用障害は飲酒のコントロールを失い、
本人または周囲が社会的、経済的、身体的、
心理的不利益を大きく被っている状態です。
壮年から高齢の男性に多く、
常に酒を探し回る「脅迫的飲酒欲求」が
出てくることがポイントです。
アルコール(酒)によって
体に何が起こりうるかについては、
今まで勉強してきましたね。
消化器系では食道静脈瘤、
胃炎、肝障害や膵炎のリスク、
循環器系では心肥大、心筋症、
動脈硬化のリスクになりました。
では、これらリスクがあるのになぜ依存に陥るのか。
その一因は、アルコールによる神経抑制にあります。
アルコールは、
神経細胞の情報伝達を麻痺させていきます。
ヒトは全身(や精神の働き)を
常に「コントロール」していますね。
コントロールしているということは、
いつもどこかで「抑制(~しちゃだめだよ)」が
かかっているということです。
ごく低濃度のアルコールが血液中に入ると、
この抑制が少しずつ麻痺していきます。
末梢血管を収縮させている抑制が外れると、
顔面紅潮や赤鼻といった末梢血管の拡張。
精神機能の不安や恐怖を
担当している部分の抑制が外れると、
陽気・多幸感が出てきます。
気分が良くなる「ほろよい」状態ですね。
これ以上アルコールの濃度が上がるとどうなるか。
運動神経が麻痺してくると、
ふらつき、千鳥足、手指振戦が出てきます。
意図せずとも声が大きくなることも、
運動神経のコントロール異常です。
感覚神経が麻痺してくると、
幻視等の感覚障害も出てきます。
それでも飲み続けると中枢神経系まで麻痺し、
呼吸が止まってしまうこともあります。
急性アルコール中毒のおはなしそのものです。
これが慢性化すると、神経は
「ある程度麻痺した状態」が基準状態になってしまいます。
そこから飲酒を断つと、1~3日内に
「自律神経異常の嵐」と呼ばれる症状が出てきます。
頭痛、嘔気、嘔吐、不眠、発汗、手指振戦
…不快な症状ですね。
さらに中枢障害としてけいれん発作、
精神症状として不機嫌、焦燥、不快、抑うつ気分、
易刺激性が出てきて、実に嫌な気分です。
身体も精神も、不快ではなく快を求めます。
「こんな嫌な状態は我慢できない!酒だ!麻痺させろ!」
…身体面からも精神面からも依存ができていくのです。
それでも頑張ってアルコールを断っていると…
今度は断酒して4週間ほどまでに
もっと強い精神症状が出てきます。
せん妄、意識障害、失見当識、過度の興奮に加え、
発汗、発熱、頻脈も出てきます。
それでもものすごく頑張ってアルコールを断って、
半年後くらいまでは遷延性離脱障害が出続けます。
最初に出た不機嫌や易刺激性といった精神症状が、
ここまで続くのです。
一度依存化してしまうと
これら離脱症状を乗り越えるのは至難の業。
一度でもアルコールを口にすれば、
元の状態に逆戻り(スリップ)。
「治癒」という状態もありません。
だから本人だけでなく家族、家族だけではなく
社会環境が必要になってくるのです。