4 セントラルドグマの理解・確認(3)
ウイルスは細胞を使わないと
増殖できないことが分かりましたね。
ここまで分かれば、
「ウイルスに効く薬の難しさ」も理解できるはずです。
「体調が悪いときには、薬を飲めば治る!」
と私たちは思っていますが。
…とりあえずここでは「体調が悪い」原因を、
異物の侵入に限定して考えてみましょう。
微生物学のおはなしを(総論1の「大まかな分類」だけでも)読むと、
異物には「ヒトの細胞と異なるところ」があることが分かります。
その「ヒトの細胞と異なるところ」を狙った薬ができれば、
ヒトの細胞に害の出にくい便利な薬の完成。
これは薬理学(特に細菌に対する抗生物質)で出てくるおはなしです。
では、ウイルスに効く薬はどうしましょうか。
ウイルスが増えるところを狙って邪魔する必要がありますね。
「簡単だよ!逆転写を邪魔すればいいんでしょ?」
確かに逆転写をするレトロウイルスだったら効きそうです。
逆転写を邪魔する薬として、
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に使う
ジドブチン(レトロビル)などがありますよ。
じゃあ、逆転写をしないウイルスにはどうしましょうか。
「む…?ウイルスは増えるときに
ヒトの細胞の道具や材料を使っているから、
『ウイルスの増殖だけに効く薬』はできないってこと?」
そういうことになりそうですね。
もちろん、先に確認した
「免疫系を強化する」薬はウイルス感染に効く薬です。
それでも発熱等の各影響がヒトの体にも出てきてしまいました。
ウイルスの増殖を防ごうとすると、結局ヒト細胞のDNA複製や、
転写・翻訳を経たタンパク質合成のどこかを邪魔することになります。
こちらもヒトの体にとって少なからず悪影響が出てきてしまいますよ。
特に「生まれ変わりが早い細胞」では、
直接大ダメージを受けることになってしまいます。
どこが当てはまるかは、先に確認しましたよ。
「一応はウイルスに効く(増殖は抑えられる)けど…
使いにくい!」薬ですね。
しかも、その薬も「飲めば治る!」ではありません。
「飲めばウイルスの増殖を抑えられるから、
その間に白血球たち頑張って!」です。
「えぇ…結局、ウイルスに感染したら薬では治せなくて、
免疫が頑張るしかないの?」
その通り。
だからウイルスが原因の「体調が悪い」に対しては、
基本的に薬は補助
(痛みを鎮める、高熱を抑える…)にしかなりません。
普段の生活でいかに白血球たちを維持して、
元気にしておくかが全てになってしまいます。
ここまで分かったうえで、
新コロナちゃんを見てみると。
新コロナちゃんはRNAウイルスのコロナウイルス科。
レトロウイルスの一族ではないので、
逆転写を狙った薬は使えません。
「新型」だから、
効く薬が分かっていない(出来ていない)のは確かな事実。
だけどそれ以前の問題として、
「ウイルスにだけ効く薬が難しい!」という事実もあるのです。
これで皆さんは、(生化学の)セントラルドグマと、
(微生物学の)ウイルスの非生物性と増殖について、
より深く理解できたはずですよ。