11 精神のおはなし(1)せん妄、認知症、うつ病(2)
(2)認知症
実はせん妄の危険因子の1つに
「認知症」もあります。
認知症というのは脳の病的変化によって
いったん発達した知的機能(認知機能)が、
日常・社会生活に支障をきたす程度にまで障害された状態。
脳の病的変化を起こす原因によって
「~型」と名前がついています。
多い順から「アルツハイマー型」「脳血管性(型)」
「レビー小体型」「前頭側頭型」です。
この型によって障害の出方が異なりますので、
注意してくださいね。
A アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、
アルツハイマー病とも呼ばれ、認知症の3~4割を占めます。
次におはなしする「脳血管性」病変を伴う
アルツハイマー型を含まると、
認知症の6割以上を占めることになります。
環境要因と遺伝的要因の複合によって起こると考えられています。
加齢や女性、頭部外傷やタバコが環境要因、
遺伝的要因としてアミロイドβ前駆タンパク
(APP)の存在があります。
アミロイドβというタンパク質が脳に沈着して老人班ができ、
それによって脳細胞が壊死して、
認知症の症状が出るのが「アミロイド仮説」です。
アルツハイマー型認知症の特色は「物忘れ」。
認知症の前段階とされる軽度認知症状(MCI)は、
何らかの認知機能障害があるが日常生活に支障のない状態。
「自覚のある物忘れ状態」ですね。
そこから1年以内に、約1割が認知症に移行するとされています。
アルツハイマー型では
ゆっくり進む(緩徐進行性)近時記憶障害や
時間・場所の失見当識が自覚なく進んでいきます。
後期になると人格・行動変化が出て、
一部では被害妄想や昼夜逆転も起こります。
「仮説」とあったことからも分かるように、
原因についてはまだよく分かっていません。
そして根本的な治療薬もありません。
良く用いられるコリンエステラーゼ阻害薬も、
一時改善か現状維持くらいです。
なぜ、コリンエステラーゼ阻害薬が認知症の薬なのか。
まず、コリンエステラーゼは
「コリン」を分解する(エステル化する)酵素です。
「コリン」というのは、「~コリン」と付く名前をまとめたもの。
「コリン」と耳にしたら思い出してほしいのが、
自律神経系の神経伝達物質「アセチルコリン」です。
アセチルコリンは脳でも使われていて、
加齢によって徐々に減っていきます。
アセチルコリンが減ると
物忘れ(健忘)や認知機構低下が起こることが分かっています。
だから記憶や認知機能障害があるなら、
アセチルコリンの分解をじゃますれば
その障害等を緩和・軽減できるのではないか…
これがコリンエステラーゼ阻害薬です。
このように、精神のおはなしでは
神経伝達物質に注目した薬がたくさん出てきます。
代表的な神経伝達物質がどんな働きをしているか、
意識しながら読み進めてくださいね。